勇気を出して大企業から飛び出そう!業界にイノベーションを起こすのはあなた自身


スタートアップが発生しづらい日本のエネルギー業界にも、未来志向のサステナブルな新規事業が少しでも多く発生してくることを願い、インタビューを通じて、業界内で熱く頑張る人と知見を繋げていくシリーズ企画の第6回です。


◆今回は完全公開記事です。


エネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第6回
勇気を出して大企業から飛び出そう!業界にイノベーションを起こすのはあなた自身

今回のゲストは、東京電力で企画職一筋、新事業の立ち上げや社内の組織改革に多く携わり、スタートアップ投資の責任者も務められた山口さんです。その後、環境・エネルギー分野のスタートアップへ投資するベンチャーキャピタルである環境エネルギー投資へ転職し、エネルギー業界全体のイノベーションの加速に尽力されています。大企業でのイノベーションの難しさや、現在取り組まれている事業、将来の電力事業への想いなど、様々なお話を伺いました。

インタビューハイライト 「今回の金言」

  • 自分では当たり前のように思っている知識・経験でも、外の世界に出ると思いの外重宝されるということがあるため、新しいことに取り組みたい大企業の社員はもっと外に飛び出していこう。そうすればきっと、もっと新たなイノベーションが創出され、社会がより良くなっていく。
  • イノベーションは”こんな問題を解決したい”という課題意識から始めるべし。”自社の強みを活かして何か新しいことを始めよう”は順番が逆。
  •  CVC の成功要因は、①トップの理解、②社外のプロの登用、③登用した社外のプロを自由に泳がせられるよう社内を調整する役回り、の3点が揃うこと。

ゲストプロフィール:

山口 浩一(やまぐち ひろかず)さん @環境エネルギー投資

  • 東京電力でキャリアをスタート、長らく企画職に従事され、組織改革や事業開発等様々なご経験を有する。現在は株式会社環境エネルギー投資に在籍。
  • 東京電力在籍時は、新規事業の立ち上げ、社内変革、新組織立ち上げなど、様々な重責を果たされ、現在のキャリアにも繋がるCVCの立ち上げから遂行までにも携わる。
  • 現在は自身でも事業会社を立ち上げ、日本のエネルギー業界のイノベーションの牽引に尽力。

―― これまでのご経歴について教えてください。

1987年に東京電力に入社し、最初は現場へ配属されたのですが、2~3年目に本店の企画部へ異動になり、その後ずっと企画系の仕事一筋でした。電力会社というのは、将来の需要の想定に基づきそれに合わせて設備を計画し、投資していきます。企画へ異動した当時はまだ需要が右肩上がりに増えて行っていた時代だったこともあり、電力会社の企画の一番重要な仕事は需要想定であると言われていました。そのため、需要の想定を作るために、その手前の日本マクロ経済の見通し、景気の見通しなどについて調査・分析し、レポートにまとめるような仕事をしていました。

その後、東日本大震災を経験することになりますが、当時は企画部企画課長を務めていたため、社内の大混乱の渦中にいました。震災前から新事業の立ち上げなど社内改革的なことに取り組んでいたこともあり、当時もJERAの立ち上げなど多くの組織の改革に携わります。その一環として新成長タスクフォースというCVC組織を立ち上げることとなり、その責任者も担うことになりました。そこではスタートアップへの投資や社内でのイノベーションの創出などに取り組み、色々面白い取り組みが出来たと思っていますが、途中で会社の経営方針も変わってしまい、それまで振り切った感じで自由にやってきた私のスタンスとのギャップも目立つようになり、東京電力を離れることになりました。

現在は、環境エネルギー投資という環境エネルギー分野に特化したVC(ベンチャーキャピタル)に所属しており、資金集め、海外の投資家対応、新しい事業会社の立ち上げなどに従事しています。東京電力でCVCを立ち上げた頃に培った人脈や知見を十分に活用することが出来まして、多くの企業から資金調達をすることが出来ました。

―― 東京電力という大企業でCVCに取り組まれていたということですが、そこでの難しさはどんなところにありましたか?

スタートアップへの投資というのは1/10程度しか成功しないのが常であるため、失敗は必然なのですが、それを認めてもらえない状況というのは非常に厳しいものだと思いました。どれだけ事前に説明しておいたとしても一件目の経営が苦しくなると、すかさず鬼の首取ったように「それ見たことか」となるのです。東京電力でのCVCは、立ち上げ当初は震災後の東電改革の一つとして「東京電力も新しいイノベーションに取り組んでいるという姿勢を見せたい」という役所の意向も働いていたため、多少の失敗にも理解はありうまく進んでいたのですが、本来的には社内でその必要性が十分に感じられていないと継続することは難しいと思います。

―― 一般にも、大企業でのCVCやそれを活用したイノベーションの成功例が少ないと聞きますが、その理由はどこにあると思いますか?

CVCはいくつかの条件がピタッとはまらないとうまくいかないと思っています。①トップに理解がありコミットしてくれること、②スタートアップ投資に長けた人を社外から連れてきて自由にやらせてあげる環境を作ること、③その社外から登用した方を自社の目的に合わせて適切にコントロールしつつ社内調整は一手に引き受けるような人を置くこと、この三つの要素がどれか欠けただけでもうまくいかなくなってしまうため、CVCを成功させるためには絶妙なバランスを保ち続けることが重要な要素だと思っています。大企業でのイノベーションの難しさは、経営トップが変わると方針が大きく変わってしまう場合がある点だと、実体験を持って痛感しています。

加えて、大企業が陥りやすい思考として、”自社の強みを活かして”何か新しい事業を始めよう、というものがあります。イノベーションは本来”こんな問題を解決したい”という課題意識から始まるため、思考の順番を変える必要があると強く感じています。あとはとにかくスピードですよね。課題目線で着想して、とにかく迅速にやってみる。

こうしたことは、イノベーションの教科書にも書いてあることであり、認識している人も多いはずなのですが、気付くと「うちの強みはなんだ!」となってしまうのです。人の思考回路というのは長い時間をかけて染みついた習性に等しいため、一朝一夕に変えることは非常に難しいと感じており、自身の事業がディスラプトされていく、といった危機感が一番の薬かもしれません。

―― 現職で新しく立ち上げているという事業会社では、どんな事業に取り組む予定ですか?

 RE100 を掲げる事業者は国内でも増えてきていますが、RE100を達成するための方法は、例えば自家消費のPVを設置する、小売電気事業者の提供する再エネ100%電力を購入する、証書を購入する、証書の中でも J-クレジット非化石証書 、 グリーン電力証書 、等、様々あり、どれを選んだから良いか、電気事業者でさえもパッと分からない中で、電力業界以外の方だとなおのこと複雑すぎて分からないという問題があります。そういった課題を解決するようなことに取り組もうと思っています。本当であれば誰か似たようなアイディアの事業を始めていて、当社はファンドとして支援する、という形が良いのですが、世の中で誰も始めていなかったので「じゃあ、自分たちで始めるか」ということになりました。

事業のアイディアは他にも沢山あるため、今後もまず自分たちで事業を起こす、ということに取り組んでいくと思います。Entrepreneur in Residenceといったところでしょうか。ちなみに、上手く立ち上がりそうな事業が出てきたら経営者を探すことになると思います。珍しいやり方と感じられるかもしれませんが、東京電力時代に立ち上げた TRENDE という小売電気事業者でも同じように社長を外から連れてくるということをやりました。日本のエネルギー業界はベンチャーも少ないですし、我々も前例にとらわれず、果敢に挑戦していきたいと思っています。

―― 新しく会社を立ち上げる際の難しさについて教えていただけますか?

細かい事務的な実務は弁護士、会計士、税理士等専門家を雇えば良いので大きな問題にはならないのですが、資本政策を考えるところが一番難しいと思います。特に我々はファンドなので、将来のエグジットも見越して他にどういった投資家を招くか、事業の成長と資金の計画と両方の将来計画を立てる必要があるところが難易度を増しているかもしれません。前職でも多少資本政策についてはかじってはいたものの、常に新しいことを勉強しながら取り組んでいます。

会社の立上げに限定した話ではなく、私の場合、東京電力にいた時は、自分では資料もロクに作らなくなって久しい状況でしたので、パワーポイント資料の作り方から勉強し直しました(笑)。当然、色々と苦労はしましたが、頑張ればどうとでもなるものだなと感じています。

―― 日本では欧米に比べてエネルギー系のスタートアップが少ないように思っているのですが、何故だと思われますか?

個人的にはビジネスチャンスは結構あると思っていますが、それに気付きやすいエネルギー業界の人間が「外に出て事業を起こそう」、と行動に移す人が欧米に比べて圧倒的に少ないからではないでしょうか。それは、教育や文化の違いも密接に関係していて、欧米の方が自分の可能性を信じている人が多かったり、個々人が信念を持ったりすることを重要視していたりすることも影響しているように思います。

私自身が実際に長年働いた会社を飛び出して、外の世界に出てみて感じていることとしては、今までの業務経験上やったことがない仕事であっても、取り組んでみると意外とできてしまったり、自分では当たり前のように思っていた知識や経験が評価されたりすることがあるということです。大企業にいると社内の調整など内向きの仕事に忙殺されてしまうケースが多いので、個々が持っている本来の力が発揮できていないのではないか、ということにも気付かされました。新しいことに取り組みたい大企業の方がもっと外に飛び出していけば、日本はこの先何とかなっていくかもしれない、と思っています。

―― 長らく電力業界に携わる山口さんですが、この変化の大きい時代に於いて、今後の電力システムはどうあったら良いと考えていらっしゃいますか?

世界の流れが、分散化、市場開放、自由化といった方向性に流れてきているので、その流れを使って新しいより良いシステムを作っていくのが良いのではないかと考えています。具体的には、旧態依然とした重厚長大な電力システムを維持するのではなく、 DER を中心とした新しい電力システムに早急に移行する必要があると思っています。それを実現できるダイナミックな業界に日本の電力業界がなっていけたらいいと思っていますし、それを世界中に展開していけたら、という夢も持っています。また、新しい電力システムの構築を通してしっかり利益も創出して、最終的には原子力の諸問題もそのお金でもって解決していけたらいいな、と考えています。

(終わり)


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記事執筆日: 2020年6月12日

執筆責任: GreenTech Labs