外資系スマートメーター大手の日本法人代表が語る最新のスマートグリッド事情


エネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第11回
外資系スマートメーター大手の日本法人代表が語る最新のスマートグリッド事情

今回は、大手電力会社で20年に渡り活躍されたあと、外資系のスマートメーターソリューション大手の日本法人代表へのキャリア転換を果たし、外資系企業の立場から日本の電力市場の盛り上げに尽力されている方のインタビューをお届けいたします。最新のスマートグリッド事情から、外資系企業での働き方まで幅広くお話を聞かせていただきました。

インタビューハイライト 「今回の金言」

  • アイトロンが提供するスマートメーターという商材は、一度導入すると10年は同じものを使い続けますので、それぞれのプロジェクトにおいては次の更新時まで大きな変化は起こりません。しかし、会社全体で見ると、世界のどこかで必ず大規模な最新プロジェクトが動いていますので、グローバルの顧客ニーズの変化や、最新ユースケースの情報というのは、共有され続けます。
  • 具体的なユースケースとして、私が面白いと思うのは、ローカルDRです。トランス配下の配電系統の中の負荷状態に応じて、家庭の機器の需要の上げ下げを行うのですが、一連の処理が全てトランス配下の配電系統に繋がった設備同士の通信、つまりローカルネットワーク内で完結します。例えば、ソーラーパネルから系統に流れる電力で系統電力が余っている時間帯には、別家庭の電力需要を高めて余剰電力を消費したり、EV充電をしたり。ローカルの配電系統内の需給バランス調整という高度な仕事を、近隣メーターと互いにデータをやり取りし、判断しながら、実行していくというものです。
  • 秋元康さんが、ある記事の中で「止まっている時計は、日に2度合う」という言葉が好きだと話していました。世の中に正解なんてものはなく、自分自身が、これが正解だと信じる道を突き進み、それを正解にしていかないといけない。世の中の流行りを後追いして、5分遅れで時計の針を回しているだけでは、永遠に5分遅れで走り続けるだけですが、自分の軸を定めて(時計の針を止めて)行動し続けていれば、時計の針が回ってきて、自分の針と同じ向きを指し示す時が必ずやってくる、ということを言っています。

本日のゲスト:大澤 武郎(おおさわ たけお)さん @アイトロン・ジャパン株式会社

1991年から20年以上にわたり、大手電力会社で、通信システムの運用・保守、新規技術の調査、新規事業開発から、スマートメーター導入検討まで幅広い業務に関わる。その後、スマートメーターソリューション大手のグローバル企業に転職し、日本法人の責任者として、日本市場への橋渡し役を担う。

―― これまでのご経歴について教えてください。

私は1991年に東京電力に入社しました。元々、通信事業をやりたくて入社しましたので、電信通信部門を希望し(※注釈1)、群馬県渋川市の現場で通信設備の保守・運用の業務を担当した後、本店電子通信部の通信調査課という部署で、通信事業の調査や立上げ支援を行いました。その後、1995年から2年間、シアトルのワシントン大学に留学する機会に恵まれ、電気工学を専攻し、実際には、ここでもコンピューター通信の勉強をしており、論文テーマも通信工学に関するものでした。1997年に帰国して電子通信部に戻り、2年間、電力用通信システム全体の計画策定、次世代通信の規格策定の仕事を行い、電力会社の通信システムの全体像を勉強することができました。

その後、1999年から2003年まで、新規事業に取り組むことができました。最初に立ち上げたのが、東電の新規事業第1号であった光ファイバーの心線貸し事業です。電力会社が、所有している光ファイバーケーブルの空き心線を他の通信事業者へ貸し出すという事業です。当時はITバブルと呼ばれた時代で、海底ケーブルが設置され、インターネットサービスを提供する通信事業者が次々と登場しました。私達も、東電とソフトバンクと日本マイクロソフトという3社で手を組み、スピードネットという会社を立ち上げて(今ではブロードバンドが当たり前ですが)ダイヤルアップ式に代わるブロードバンドサービスの展開を狙いました。 IEEE 802.11 をベースとしたWi-Fi規格ができ上がる前の時代でしたが、同様の技術を使って、家までのラストワンマイルを無線で繋ごうという仕組みです。その後、私自身は立ち上げたスピードネットに出向することはなく、東電に残り、アット東京というデータセンター事業や FTTH 事業の中心メンバーとして事業開発を推進しました。FTTH事業は、今はKDDIのサービスとなっていますが、2002年には当時の上司の強力なリーダーシップの元、4人のチームで事業を立ち上げ検討を開始しました。

2003年には、米国のワシントン事務所に赴任し、2007年まで米国ワシントンDCで仕事をしました。ここでの仕事は、主に最先端の通信技術の調査でした。 IEEE 等の標準化団体や業界団体のメンバーとして活動し、日本での事業化に向けヒントとなるような情報を求め、日々、リサーチ活動を行いました。

2007年に帰国し、川口支社の電子通信グループのマネージャーとして、川口、草加、越谷、三郷、八潮、吉川といった地域の通信設備の建設・保守・運用の仕事をした後、2009年からは、今では導入が進み当たりまえの設備となりつつある スマートメーター システムの企画・導入に邁進しました。2011年3月の東日本大震災により、会社経営の先行きが不透明になり、一時は導入検討を中断しましたが、大規模停電等の経験を通じ、電力システム改革の議論が活発化し、同年10月には、こういう状況だからこそ小売全面自由化の実現に向け、あるいは デマンドレスポンス (以下、DR)の基盤を作るためにスマートメーター検討を加速化すべしとなったのです。2013年には、スマートメーターシステム調達のために、海外メーカー含めた大々的なRFPを実施し、その後、調達先を決めるところまでやり遂げた後に、2014年3月31日に東京電力を退職し、アイトロンに転職しました。

スマートメーターシステムの調達をやっていた頃から、日本市場への興味を強く持っていたアイトロンとは対話の機会があり、標準化にも積極的で、とても意識が高い素晴らしい会社だなと思っていたのです。残念ながら、東電では採用には至らなかったのですが、それでもなお日本市場で頑張りたいと声をかけて頂いて、日本の会社の特徴も良く分かっている自分が橋渡し役として、貢献できる部分があるのではないかと思い、転職を決断しました。

―― アイトロンの事業内容、また日本ではどういうサービスを展開されているのか、教えていただけますか。

アイトロンは、スマートメーターの大手グローバルメーカーとして知られていますが、私達自身は、自らを「水とエネルギーを賢く使うためのソリューションとサービスを提供するための会社」と位置付けています。スマートメーターシステムで使われるヘッドエンドのための通信ネットワーク・ソフトウェアや、データ分析プラットフォームが主力ソリューションでして、日本でも電力会社様向けに、パートナー企業を通じてヘッドエンドのソフトウェアを導入しています(※注釈2)。また現在、多くの電力会社で、スマートメーターシステムの次世代機能の検討が行われていますが、こちらでも積極的な提案を行い、データ分析技術等の実証も進めています。標準化の活動にも積極的でして、私自身、Wi-SUN(Wireless Smart Utility Network)アライアンスの役員も務めていました(※注釈3)。

2017年にConvergeという会社を買収し、DRのソリューション販売やサービス提供も手掛けています。同年、電力会社による調整力電源の公募調達における「電源Ⅰ’(電源イチダッシュ)」にもアグリゲーターとして参画しました(※注釈4)。実際のDRサービスで弊社ソリューションの有効性を証明した上で、今はアグリゲーター事業を行う事業者へのソリューション提供に注力しています。

水道分野においても、昨年から、パートナー企業を通じて、スマート化に対応した安価な水道メーターや通信モジュール、また収集したデータを処理するクラウドサービスの提供を始めました。ガス分野では、圧力調整装置というややマニアックな製品を、ガス会社にシステムを提供するメーカーさんに卸しています。米国資本のグローバル企業の日本法人は多く、競争も激しいので、特徴のあるソリューションで隙間で入っていける領域を狙っています。

アイトロン日本法人であるアイトロンジャパンは日本市場を対象に事業を行いますが、グローバルのエンジニアを巻き込んでチームを組みます。主に、米国、オーストラリア、シンガポールやタイの事業所と連携しながら、プロジェクトを組むケースが多いですね。

―― 競合他社と比較すると、アイトロンはどういったところに強みがあるのでしょうか?

アイトロンは、100か国以上の国で、8,000社を超えるお客様にソリューション・サービスを提供しており、電力・水道・ガスと社会の基盤となるインフラを幅広くカバーしています。多様なお客様と仕事をしているため、幅広いニーズに応えるソリューションを保有しており、実現したユースケースも多岐に渡ります。スマートメーター・スマートグリッドの世界は、2000年台の半ば頃に、米国でブームがあり、第1世代のスマートメーターが登場し、勿論アイトロンも先駆けて参入を果たしました。その後、第1世代を経験したお客様の生の声を聞かせていただき、次世代の仕様検討・開発に反映しています。最近は、電力・ガス・水道に加えてスマートシティという新たな事業ドメインも加わりましたが、お客様との対話を通じて、新時代に求められる機能を知り尽くしているのが、私達の大きな強みであると自負しています。

アイトロンが提供するスマートメーターという商材は、一度導入すると10年は同じものを使い続けますので、それぞれのプロジェクトにおいては次の更新時まで大きな変化は起こりません。しかし、会社全体で見ると、世界のどこかで必ず大規模な最新プロジェクトが動いていますので、グローバルの顧客ニーズの変化や、最新ユースケースの情報というのは、共有され続けます。

技術の話にも少し入りますと、垂直方向に製品・サービスを一気通貫で提供可能であることも強みです。例えば、電力分野なら最下位層に位置するスマートメーターというデバイス、スマートメーターのデータをサーバまで繋ぐネットワーク、その更に上位には、Outcomes(アイトロン社内での呼び方で、ソフトウェア、 SaaS を指す)という形で、全ての階層を1社で提供しています。歴史も長く、1977年に無線でメーターデータを取るという仕事を始め、通信ネットワークを汎用性の高い低コストなものに変えてきており、今ではガス・水道兼用の電池で動く低コストデバイスも提供しています。

―― グリッドデータの最新の解析技術により、どういったことが実現できるようになっているのでしょうか?

メーターのデータだけを活用して、エッジコンピューティングにより、どのメーターがどのトランスに繋がっているか?黒・赤・青の相接続の状態まで判別するのが強みとしている技術です。リアルタイムに電圧値を取得して、近隣メーターに送り合い、電圧変動の相関分析等を行うことにより、99%の精度でトランス収容情報、相接続情報を判別できます。正確には、物理的に自分と同じ電線に繋がっている仲間のメーターを判別するということですので、メーター1台でも実際の収容・接続状態を示す保守情報があれば、芋づる式に仲間のメーターも全て同じトランス配下に繋がっていることを特定できます。配電会社では、相間の不平衡(※注釈5)が問題になっているケースも多いため、どの相にメーターが繋がっているかが分かると、逆潮流等による相間不平衡の問題解決に寄与します。最近は、ラインセンサー(※注釈6)というデバイスも少しずつ導入が進んでいますが、ラインセンサーの設置は安くはないため、メーターのデータだけでやれないか?という話を聞くことも多く、私達の技術の活用シーンを増やして、少しでも貢献できればと思います。

ちなみに、アイトロンの通信モジュールには、デュアル通信方式で、低速 PLC も実装しているものもありますので、トランスの接続状態判別はPLCを使って一気に答えを出すというケースもあります(※注釈7)。日本では高速PLCは使えないですが、低速のPLCは屋外でも使うことができます。当然、電力会社が使う場合は許可が必要であり、電波法の基準を満たす必要はあります。

―― エッジコンピューティングとは、どのような技術なのでしょうか?

スマートメーター等の利用者に近い端末から集めたデータをバックエンドのサーバに集めて、データ解析をするというのが、これまでのやり方です。具体的には、メーターから集めた電力量、電圧、電流等の配電系統のデータを解析して、負荷状態を見える化、停電管理といったソリューションを提供しています。こうした処理をバックエンドのサーバで実行するのが従来の手法でしたが、最近は、スマートメーターもスマホと同様に複雑な演算処理が可能なプロセッサを安価に搭載できるようになってきています。スマートメーター自体の頭が良くなるため、自由にアプリをインストールすれば、サーバに頼らなくても、複雑な仕事ができるようになるということです。このように中央のサーバに頼らなくても、ネットワークの端末側でデータを処理し、高度な判断を行う仕組みをエッジコンピューティングと呼んでいます。

高機能なプロセッサを搭載したスマートメーターは、既に米国の複数ユーティリティ(Xcel Energy、 Avista、AvangridやTampa Electric等)やタイのPEA、トンガ王国などで、既に採用されており、数十万台規模で導入が進んでいます。高機能なプロセッサも数が出れば価格は下がりますので、今後はスマートメーターの標準形になっていくでしょう。

―― 何故、エッジコンピューティングを活用して、ローカルで処理を完結させる必要があるのでしょうか?

無線通信ネットワークの効率利用・有効活用が可能というのが理由です。一般に配電自動化システムにおいては、高圧系統のセンサー情報の伝送には光ファイバネットワークの大容量通信を使っていると思います。通信が必要な屋外機器の種類も数も増えてくると、全てのデバイスを光ファイバー、ブロードバンドで繋いでサーバで処理をするというやり方は高コストで経済性の面で無理があります。スマートメーターも用途にあった無線帯域の設計をすることで、低コストに抑えています。現行の無線帯域では、検針値を30分に1回程度メーターからサーバへ送ることは問題なくできますが、サーバから全てのメーターに対して、リアルタイムにあらゆる制御通信を流すというのはネットワークの通信容量の制約から困難です。

但し、無線マルチホップ方式において、1ホップ、2ホップ先のメーターとの通信で完結するのであれば、高頻度な通信が可能となりますので、ローカルネットワーク内で処理を完結させるエッジコンピューティングを活用することで、より重い処理、高度なサービスが実現可能となります(※注釈8)。トランス配下の負荷を一定水準以下に抑えるという目的であれば、そのための通信、計算処理もトランス配下で完結させたいというのはありますよね。サーバとの通信は本当に必要なものだけに限定すれば良いと思います。

―― エッジコンピューティングを活用することにより、どういうユースケースが可能となるのでしょう?

具体的なユースケースとして、私が面白いと思うのは、ローカルDRです。トランス配下の配電系統の中の負荷状態に応じて、家庭の機器の需要の上げ下げを行うのですが、一連の処理が全てトランス配下の配電系統に繋がった設備同士の通信、つまりローカルネットワーク内で完結します。例えば、ソーラーパネルから系統に流れる電力で系統電力が余っている時間帯には、別家庭の電力需要を高めて余剰電力を消費したり、EV充電をしたり。ローカルの配電系統内の需給バランス調整という高度な仕事を、近隣メーターと互いにデータをやり取りし、判断しながら、実行していくというものです。まだ商用サービスには至っていませんが、米国の一部の電力会社とこうしたローカルDRの実証試験を行っています。

ローカルDRはあくまで一例であり、エッジコンピューティングがあると、アプリさえ入れれば色んなユースケースに対応することができます。現在、30以上のアプリが開発されていますが、主に、スマートメーターシステムのオペレーターが、システムの運用性の改善等の目的で使っているものが多いです。

あるアプリでは、同じトランス配下に属する仲間のメーター全体の電力消費量の足し算がいくらか?を周囲のメーターとリアルタイムに通信しながら計算します。最近では、 ディスアグリゲーション のアプリもメーターにインストール可能です。これを使えば、家庭内の(消費電力の大きい)主要機器の稼働状況が判別可能となります。主要機器のON/OFF状態がある程度の確度で判定できます。ローカルDRを実現するためには、どの家庭のどの機器に上げ・下げの余地があるかを判定することが必要ですし、上げ・下げのシグナルを送信した結果、正しく稼働(あるいは停止)したのか?を確認する作業も発生しますので、ディスアグリゲーションも将来欠かせない技術になると考えています。

―― アプリは、サードパーティが自由に開発すると聞きましたが、どういう仕組みなのでしょうか?

アイトロン自身がアプリ開発を積極的に実施するというよりは、アイトロンはプラットフォームとしてAPIを開放してサードパーティが自由にアプリを開発し、利用シーンを作り出していけるように認証の仕組みを提供しています。ディスアグリゲーションのアプリもパートナー事業者が開発したものです。電力、ガス、水道だけでは広がりがないため、街路灯とか画像分析の会社と組んで駐車場の駐車状況が分かるスマートパーキングのようなアプリも開発されています。SDK(ソフトウェア開発キット)をウェブ上で公開しており、ハードも購入することが可能です。

―― 高度なプロセッサを搭載した通信モジュールは、どの程度の価格水準になるのでしょうか?

弊社の、無線とPLC、Wi-Fiに加えて、高機能プロセッサを搭載したモジュールは、現在日本のスマートメーターに採用されている920MHz省電力無線の通信モジュールと比較して未だ高額だと思いますが、導入数量が大きくなればその差は狭まり、その付加機能がもたらす付加価値が、価格差を上回ると考えています。

米国等においても、主に導入主体は規制電力会社になりますので、当然コストが高くなると、規制当局に対して投資の正当性を、数字で説明する必要があります(※注釈9)。既に採用を決めた電力会社では、導入・活用のシナリオを検討し、エッジコンピューティングとアプリを活用することで、例えば、盗電がリアルタイムで検出できること(=盗電削減による収益改善)を主たるユースケースにすることもありますし、メーターと電線の接続点の緩みによる加熱・発火等のリスクを予防するというユースケースもあります。トランスからメーターまでの抵抗を常時測定して、インピーダンス異常を検出することで、火災に繋がる不具合を未然に検出することができるのです。

―― アイトロンが保有している技術分野に限定せず、注目している技術、ユースケース等はありますか?

次世代の電力取引、再エネの導入支援といった将来ニーズに応えるユースケースが有望だと思います。繰り返しになりますが、エッジコンピューティングを活用することで、メーターに搭載のされるアプリにより逆潮流をより的確に管理すること等によって、配電線の需給バランス調整をより精緻に行えるようになります。

また、マルチユーティリティの接続環境の実現を目指し、Wi-SUN FANという標準規格策定にも取り組んでいます。電力、ガス、水道に限定せず、幅広い業種間のネットワークの共同利用や、相互にデータのやり取りができるようになると、ユースケースにも広がりが見込めます。電力、ガス、水道以外の領域でも、画像分析とか、大気汚染センサーとか、オムロンさんとは地震計のデータを取得し・分析するという実証をやっています。

Wi-SUN FANについても少し解説しますね。スマートメーターの通信システムで主たる通信方式として使われている無線マルチホップ方式においては、物理層の技術はIEEE 802.15.4gという国際標準規格を採用しながらも、プロトコルスタックとしては、日本の現行システムではメーカー各社の独自技術を使っており、アイトロンも独自技術を様々な国や地域で展開してきました。これを国際標準化するために、Wi-SUNアライアンスという団体で国際標準規格を策定しており、これがWi-SUN FANです。現行規格のWi-SUN FAN 1.0において、基本的な機能については標準規格化されてきていますが、更に範囲を広げて、新しいニーズに対応する機能も含めた形で標準規格化することを狙い、年内Wi-SUN FAN 1.1という規格ができる予定です。

―― 外資系企業の日本オフィスでの仕事というのは、どういう違いがありますか?

実のところ、日系と外資系という違いはそれほど感じていません。グローバルに事業展開する大企業といっても、私が所属するのは小さな日本法人ですので、前職と比べると、会社規模の大・小による違いの方が大きい気がします。

当然、成果主義とか数字で管理されるとか、契約社会で契約を厳密にやるとかは違いますね。あとは、人材の流動性が高いというのは強く感じます。OutcomesとかSaaSとか、事業の注力領域が変わると、それに合わせて人も大きく動きます。

日本企業と外資系企業のどちらが優れているという話ではなく、単に違いだと思います。日本の大企業はプロジェクトを起こす際には社内で人材を集めることができるため、人材の宝庫であると言えると思います。グローバル企業はプロジェクトのあるところに、コアなリソースを配置しますので、社内であっても魅力的なプロジェクト提案をしなければ、プロジェクトに必要な人とカネを付けてもらえません。社内のリソース争奪戦に勝利するには、ある程度のリスクを負って意欲的な計画を作る必要があります。そして、一旦計画が認められると、それを元に自分の目標とKPIが設定され、責任を負うことになります。そして、必死で目標達成のために頑張り続けることになります。

仕事のやり方はだいぶ変わったかもしれません。自らリスクを取って、チャレンジングな計画を主張することを心掛けるようになったと思います。慎重・堅実な仕事の進め方を重視する経験が長かったため、そこは大きな違いと感じています。

日系企業vs外資系企業の対比をする際に、日本企業は人間的な付き合いベースで仕事をするため、根回しが重要である一方、外資系企業はドライに仕事をする、といった説明を聞くことがありますが、私個人の感覚としては、人間的な関係性やコミュニケーションの大切さの根本は同じだな、と感じます。外資系だって、根回し的な話はやはりありますし、しっかり目的を共有して、コミュニケーションにより巻き込んでいく仕事の仕方は大切です。

―― 外資系企業から見た日本の事業環境のやりづらさはありますか?

単独ですべてを完結させることは不可能なので、国内のパートナー企業との協働が必須だと思います。

法令化を伴うような大きな制度見直し等の話は、主な内容が英文化されていて、海外企業でも比較的容易に情報収集できますが、事業をするために常識となる諸々の制度やノウハウについても一気に修得することは難しいので、国内で経験のない企業にはそのような部分がハードルとなるケースも多いと感じています。例えば、調整力電源の公募においても、制度自体は明文化されていますが、実際に事業を回すための細かい実務の話の情報は、単独で動いていてもなかなか得られません。そのような観点から、ローカルパートナーとの協働が非常に重要だと思っています。

―― 仕事をするうえで心掛けていること、信念等を教えていただけないでしょうか?

リスクを取って、しっかり挑戦することですかね。上手くいかない場合もありますが、辛抱して、諦めずにやり続けることが大切だと思っています。

秋元康さんが、ある記事の中で「止まっている時計は、日に2度合う」という言葉が好きだと話していました。世の中に正解なんてものはなく、自分自身が、これが正解だと信じる道を突き進み、それを正解にしていかないといけない。世の中の流行りを後追いして、5分遅れで時計の針を回しているだけでは、永遠に5分遅れで走り続けるだけですが、自分の軸を定めて(時計の針を止めて)行動し続けていれば、時計の針が回ってきて、自分の針と同じ向きを指し示す時が必ずやってくる、ということを言っています。

前職も含め、これまで失敗や反省を繰り返しながら何とかやってきましたが、秋元康さんが引用しているこの言葉は、ブレずに、諦めずに、自分のスタイルで頑張ろうという私の背中を、支えてくれる言葉だと感じています。

(終わり)


【注釈】

注釈1 :電力会社は、電力システムの安定稼働のために、重要設備の事故検出・切替え等の処理を行う通信設備や、極めて高い信頼性が求められる通信インフラ等が必要であるため、独自に通信分野を担当する部門が存在し、通信設備を工事・運用・保守等の業務を一定程度、内製しているのが通常。

注釈2 :ヘッドエンドとは、スマートメーターシステムの中で、メーターからの計量データの収集、メーターへの下りの制御通信、無線マルチホップのような特殊な通信システムを維持するための複雑な通信制御を行うサーバシステムを指す。

注釈3 :Wi-SUNアライアンスとはサービスプロバイダーやユーティリティ向けに、相互接続可能でマルチサービスに利用可能、かつセキュアな無線マルチホップ別途ワークを実現するための規格策定と認証を行う団体。27ヶ国、260社が加盟。
https://wi-sun.org/ja/

注釈4 :「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方(2016年10月17日経済産業省)」に基づき、2017年度から調整力電源の公募調達が開始された。「電源Ⅰ´」は厳気象発生時等の需給バランス調整に用いるため、中央給電指令所からの指令に基づき、電力の供出ができる設備等の公募調達で、発動時間は3時間以内、最低容量0.1万kWという条件が課される。参画要件の適合性、また収益モデルの構築しやすさ(落札時に決定した容量(kW)価格を受け取ることができ、指令に応じて発電した電力量(kWh)価格で費用精算も行われる)から、「電源Ⅰ´」は、DR事業者が参画可能な市場と位置付けられる。

注釈5 :相間の不平衡とは、三相交流の高圧配電線において、単相負荷の接続相のバラツキ(特定の相に集中して単相負荷が接続されるなど)により起こる各相の電流不平衡が原因で、電圧降下が不均等となったり、フリッカ・高調波が発生したりなど、電力品質上の問題が発生し得る状態を指す。

注釈6 :ラインセンサーとは配電線に直接取り付けられ、リアルタイムに電圧、電流、負荷状態等のデータ、配電線の事故検出のための波形測定問等の処理を行い、サーバへ送信するための装置。配電系統の信頼度向上、レジリエンス確保等の目的で米国等での導入が進む。

注釈7 :無線マルチホップとPLCのデュアル通信方式では、無線、あるいは電線の通信環境に応じて、隣接メーターとの通信に利用する手段を、より通信品質が良い通信方式に切り替えることができる。PLCとはPower Line Communicationの略で、電力供給用の電線に通信信号も重畳させて、周囲の機器と通信を行う方式であり、物理的に同一の電線に接続されているため、同一トランス配下の仲間メーターを判別するのはより容易である。

注釈8 :スマートメーター間の通信は920MHzの省電力無線を使った無線マルチホップという方式を使うケースが多い。メーター間を無線でホップしてバケツリレー的にデータを収集していく方式で、何も遮蔽物がない理想的環境であれば各ホップの伝搬距離は400m~1kmとされるが、通常の環境だとメーター間の伝搬可能距離は100~数百m程度と言われる。

注釈9 :規制電力会社は、定められた頻度で、国・地域の規制機関に対して設備投資計画、費用計画を説明し、許可を得る必要がある。日本でいうと、各地域の送配電会社と、経済産業省の関係に当たる。通常、投資・費用を増やす際には、それにより、どれだけの便益が得られるのかシナリオを構築し、定量的に示すことが求められる。


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記事執筆日: 2020年8月4日

執筆責任: GreenTech Labs