移動の限界費用がゼロの社会を実現したい ~地産地消の再エネ×電化モビリティ~


ネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第22回
移動の限界費用がゼロの社会を実現したい ~地産地消の再エネ×電化モビリティ~

今回は、エネルギー×モビリティという軸から地域課題を解決するため、電化モビリティビジネスを展開するベンチャー企業の経営者のインタビューをお届けます。地産地消の再生可能エネルギーを活用し、移動の限界費用がゼロの社会を実現するために何が必要か?について、熱くお話を聞かせていただきました。

インタビューハイライト 「今回の金言」

  • 私は、電力事業自体は手段であると捉えています。大手電力会社で長く勤めていると、電力事業自体が目的化してくるような感覚もあるかもしれませんが、特に私は、過去にも地域電力の立上げとか、コンサル等をやってきた経験もあり、地域の自治体とお付き合いする機会が多かったためか、社会課題の解決、地域の活性化といった成し得たい目的があり、それを実現するための手段としての電力事業という思考がしっくりきます。
  • 大きな社会課題に対応していくためには、限界費用がゼロの移動インフラを目指すというように、極端に振り切ったゴール設定してみることが大切だと思っています。日本全域を対象に、再エネ100%の電力供給を10年後に実現するのは困難でも、ある家の中、ある地域の中、という特定エリア内であれば、再エネ100%供給モデルを実現するのは現実的と言えるでしょう。全体電力システムは、最適化された分散型の電力システムの集合という捉え方をすると、特定エリアでの再エネ100%供給モデルをクラスタ的に増やしていくことで、全体の再エネ比率を高めることが可能になるのではないでしょうか。
  • 小田原市のケースと同様に、地元の人が本気で地域課題を解決させるために、地域新電力に取り組むケースにおいては、自ら課題解決のために手段として新電力という手段を選択しますので他力本願となることはありません。大手企業がパートナーとして入ることもありますが、このように地元の人が本気で取り組んでいる地域電力は上手くいくケースが多いのではないでしょうか。

本日のゲスト:渡部 健(わたなべ けん)さん @ 株式会社REXEV

株式会社REXEV 代表取締役社長 Co-founder
早稲田大学理工学部電気電子情報工学科卒業/同大学院理工学研究科電気工学(電力システム工学)修了(工学修士)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科(金融戦略・経営財務コース)修了(金融戦略MBA)
大阪市立大学大学院都市経営研究科非常勤講師
住友商事株式会社にて中東、アフリカ、欧州向けの電力関連商材貿易実務やプラント建設プロジェクト業務を担当した後、同社子会社の小売電気事業者であるサミットエナジー株式会社へ出向し、発電所の開発業務、電力需給管理業務や小売営業など幅広く担当。その後、2009年に株式会社エナリスへ入社、執行役員 、取締役、常務取締役を歴任し、経営企画や新規事業開発などを担当。また、上場担当役員として2013年に東証マザーズ市場上場。2016年にKDDI株式会社との資本業務提携を実現、2017年3月の定時株主総会にて取締役を退任し執行役員就任。2019年1月、株式会社REXEVを設立、代表取締役社長に就任。

―― 最初に、渡部さんのご経歴を教えていただけますか。REXEVという事業に到達した背景や思い等も交えて教えていただけると嬉しいです。

私は、大学、大学院と早稲田大学で電力システム分野の研究室に所属して、電力自由化と系統運用の研究をしていました。電圧無効電力制御とか、再エネ安定化といったテーマが多かったですが、卒業が1999年でしたので、学会も電力自由化の話題もとても多かったですね。研究室の同僚の多くは電力会社に入社しましたが、私は電力自由化の研究をしていたこともあり、住友商事という外から事業を仕掛ける側の道を選びました。

住友商事に入社して最初は、海外の電力プラント開発等の仕事をやっていたのですが、2004年からは住友商事の子会社のサミットエナジーで、約5年間、電力事業に取り組みました。2009年に、エナリスに移籍し、役員を務めることになったのですが、エナリスでは、東証マザーズへの上場を果たしたり、その後の不祥事の対応をしたり、ジェットコースターのような時間を過ごしたと感じています。KDDIとJ-Powerへの株式売却を終えて少し落ち着いたタイミング、2019年1月にエナリスを退職し、エナリス時代の同僚3人と今の会社を立ち上げました。

エナリス時代にもVPPに取り組んでいたのですが、定置用電池のVPPだけではマネタイズするのは厳しいと感じていました。そんな中、電化モビリティに大きなポテンシャルを感じたというのがREXEVを立ち上げた一つの動機です。モビリティ自体の市場が立っていますし、EVに搭載されている蓄電池を上手く使えば、個別に蓄電池設備に投資することも不要となります。また、実際に車が移動のため使われるのは、1~2割程度の時間だけですので、走行していない空き時間を上手く使えばVPPリソースとしても使える可能性は十分にあります。設備利用率も向上しますし、エネルギーとモビリティで収益性を補完し合うことが出来ればマネタイズもしやすくなりますよね。

―― 地産地消の再エネ電力を活用した電化モビリティ(移動の限界費用ゼロ社会の実現)という事業を目指し始めたきっかけ、背景はなんでしょうか。元々、環境意識は強かったのでしょうか?

いいえ、元々、環境志向が凄く強かったというわけではないんです。2000年代初頭頃は商社にいても、どちらかというと、私も含め発電所とか大規模なプロジェクトを手掛けたいという人が多かったです。当時、再エネはまだ小さい市場規模でしたので、認知度も高くありませんでした。その後、FIT制度の導入により、再エネビジネスの認知度は上がり、市場も急速に伸びてきましたが。

私の中で環境志向が強くなってきたのは、比較的最近のことです。2年前は関西で、昨年は千葉、今年九州と、100年に1度と言われる規模の自然災害が毎年のように見られるようになり、死亡者も出てしまっています。海水温度も高くなっていますし、最近は地球環境の変化を実感として感じるようになり、環境意識、再エネ志向も高まってきました。

Well to Wheelで考えると、ガソリン車はもちろん、EVであっても石炭火力で発電した電力で充電するのは環境に良い持続可能なモデルとは言い難いです。EVを充電する電気を再エネに変えていくことで、環境にも優しく、将来的には移動の限界費用ゼロのモビリティシステムを実現することが出来ます。電力系統を流れる再エネ電力の量を増やすためには十分な調整力が必要となりますが、蓄電池を搭載したEVであれば、束ねて調整力としても活用することが出来ますので、モビリティとエネルギーを掛け合わせることで、大きなシナジーが創出できると考えました。

―― 事業内容を簡単に教えていただけますか。御社の目指す壮大な未来(地産地消の再エネ+電化モビリティで地域の移動限界費用をゼロに)を実現するために、思い描いているステップはございますか?

私は、電力事業自体は手段であると捉えています。大手電力会社で長く勤めていると、電力事業自体が目的化してくるような感覚もあるかもしれませんが、特に私は、過去にも地域電力の立上げとか、コンサル等をやってきた経験もあり、地域の自治体とお付き合いする機会が多かったためか、社会課題の解決、地域の活性化といった成し得たい目的があり、それを実現するための手段としての電力事業という思考がしっくりきます。

人々の移動、交通システムの将来の在り方は、多くの地域で深刻な課題と認識されつつあります。地域の交通システムは、都心部以外はほぼ赤字交通が当たり前の状況ですので。税金を投入し続けないと、維持することすら出来ませんし、地方の人口減少が進むのは、まだまだこれからです。現状、インフラが整備されていても、人口の減少に合わせて、一人当たりの維持コストは何倍にも膨らみます。そうした地域には住まなければいいのでは?と言いたくなりますが、住み慣れた地を離れるというのは、そう簡単に踏み切れるものではないですし、強制することも出来ません。

こうした大きな社会課題に対応していくためには、限界費用がゼロの移動インフラを目指すというように、極端に振り切ったゴール設定してみることが大切だと思っています。日本全体を対象に、再エネ100%の電力供給を10年後に実現するのは困難でも、ある家の中、ある地域の中、という特定エリア内であれば、再エネ100%供給モデルを実現するのは現実的と言えるでしょう。

集中型の電力システムは、これまでは正しかったと思いますが、今後は分散化の発想が欠かせないと思います。分散化されたシステムが、十分に価格も低下し、効率化されてくると、多くのものが個人に帰属するようになります。昔はポケベルを打つのにもわざわざ公衆電話に並びましたが、今はスマホに置き換わっていますよね。エネルギーに関しても、一家に1台太陽光発電や蓄電池が備わる時代が来ます。全体電力システムは、最適化された分散型電力システムの集合という捉え方をすると、特定エリアでの再エネ100%供給モデルをクラスタ的に増やしていくことで、全体の再エネ比率を高めることが可能になるのではないでしょうか。こうなると、電力会社の在り方も変わってくると思います。

―― そうした問題意識から起業に至ったわけですね。実際に事業を始めてみて感触はいかがでしょうか?

REXEVを起業したのは、私的には面白いタイミングだったなーと思っています。元々、車が好きでしたし、電力は仕事として好きでしたので、REXEVの事業そのものは私の志向そのものなのですが、日産さんが精力的に電気自動車の普及に努めてきた甲斐もあり、そろそろEVも日本で本格普及を始めるのではと感じていました。

ガソリン車は停車中には仕事をしませんが、EVは停車中にも電力を供給(放電)したり吸収(充電)することが出来ます。移動に関してはシェアリング、止まっている時には電力、という形で電気自動車の価値を使い切る発想で、事業を進化させていきたいです。日本は、カーシェアリングの文化が根付いているとは言い難い状況ですが、今年6月にサービスインしまして、徐々に会員は増えてきています。

カーシェアリングは小田原市で展開していますが、来年度には、横浜にも展開する予定です。元々は、小田原まで電車で来てもらって、小田原からEVカーシェアリングを利用、というエコ・ツーリズムのイメージだったのですが、コロナ禍で電車に乗って遠出ということが敬遠される傾向にあります。都心部はタイムズさんはじめ、大手が沢山出店していますので、同じ舞台で戦おうとは思いませんし同じことをやっても勝ち目はありません。地域循環共生圏(※注釈1)というコンセプトが最近使われるようになっていますが、弊社の事業は、まさにこうした循環型の地域社会作りに貢献するための手段と考えています。

―― 持続可能な事業を育てるために、事業の収益性も大切であると思いますが、御社の事業のビジネスモデルを教えていただけないでしょうか。

カーシェアリングという事業は、どうやって稼働率を高めるか?に尽きます。コストはほぼ決まっていますので、会員を増やして、稼働率を高めていくためのマーケティングが一番苦労しているところですね。土日の稼働率をどう取れるか?など、曜日や時間帯でセグメントを切って、分析しています。

6月のサービスインの最初は、無料キャンペーンという形でローンチして、コロナ禍で移動手段を求める医療機関の方を中心に使ってくださいとプロモーションをしたんです。そうしたら様々な方に相当使って頂いて、会員もかなり増えたのですが、無料期間を終えて有料になると、案の定、利用数が減ってきました。その後は、アクティブユーザー数をどうやって増やしていくかという地道な検討ですね。15%の稼働率が取れれば、黒字化できるかなといったところです。まだ始めたばかりですので、それほど多くの知見を得られているわけではないのですが(笑)。

実はカーシェアリングって、月に2-3万円程度利用してくれるヘビーユーザーが3~4人いれば、利益を上げることが出来るのです。車を保有すると、月々の費用は、少なくても3万円程度はかかると思いますので、カーシェアの場合、ヘビーに使ったとしてもユーザーにとって経済合理性のある費用に収まるんですよね。小田原でも、駅前駐車場代で月額1.5〜2万円くらいはかかりますし、車検、税金、ガソリン代メンテナンス等も含めて考えると、自家用車を持つのは相当の費用がかかります。都心だと維持コストは更に高くなりますね。カーシェアリングは全てコミコミの価格設定ですので、より安価な移動手段として、上手く利用していただきたいと思っています。

小田原は、人口は19万人程度ですが、駅前には、マンションも多いため、車を持っていない層も多いのです。タイムズさん等の大手がメインターゲットとしている超都心部ではない地域をEVカーシェアリングのターゲットに考えています。また、旅館やホテル等のツーリズム事業、法人や行政はじめ平日昼間の時間帯に限定して利用するお客様に車両を提供して、固定収入を得るといったモデルも行っています。弊社はEVの価値を最大限引き出していくモデルを志向していますので、先行ローンチしたカーシェアリング事業で得られた成果を、他事業にも活用していく予定です。

―― 将来の日本のモビリティシステムの中でカーシェアリングはどういう役割を担っていくと思われますか? 都市部と地方など、地域によっても差異があるのではないかと思います。

最初にお伝えしたいのは、私達はカーシェアリングというビジネスモデルに拘りたいわけではなく、手段の一つと捉えているということです。要は、限界費用の安いEモビリティが普及すれば何でも良いのです。過疎地ではよくコミュニティバスが良いと言われたりします。私達もデマンド型の電動バスには関わっていきたいと思っています。充電放電の管理とか、再エネ管理、シェアリングという視点で、エネマネ用のリソースとしても親和性が良いと感じます。

地域別に適したモデルという視点で考えますと、東京のような大都市は当然カーシェアリングがフィットしますが、人口が10万人以上程度のちょっとした都市くらいでもカーシェアリングでいけると思います。人口10~15万人程度の都市になると、車社会となり自家用車の保有率が高くなります。こうした車社会の地域では、自家用車の2台持ちをやめて、1台はEVシェアを使って頂くとか、行政とか法人に対してシェアリングサービスを提供していくというのが現実的な解でしょう。

自動運転が活用できるようになると、電車のように周遊する自動運転EVのようなモデルが出来るのではないでしょうか。人件費は不要ですので、投資回収が終わり、限界費用ゼロの再エネ電力が十分に確保されていれば、どれだけ移動しても費用が増えない限界費用ゼロのモビリティも夢ではありません。自動運転が、幅広く公道で利用できるレベルに到達するまで、どの程度の時間がかかるか分かりませんが、10年後には、ある程度、流通しているのではないでしょうか。地域によって事情も異なると思いますが、こうした未来を見据えて、今のうちから地産地消用途の再エネ電源を仕込んでおくなど、長期展望を持つことが大切です。ちなみに、弊社としても、再エネによる限界費用ゼロの移動システムを実現というミッション達成のために、自動運転技術を活用したサービス開発やエネルギーマネジメントに挑戦していきたいと思っています。

将来のモビリティシステムを考えるうえで、気を付けなければならないのは、現状の車両保有量は適正量ではないケースが多いということです。使っていないムダな車を沢山保有している場合が多いのです。自治体も法人も、電気自動車を導入したいと考えているケースは多いのですが、まずは自らの移動ニーズから必要量を見極めるのが先決です。

―― 電気自動車を導入したいという自治体が多いというのは、SDGsや環境問題等の意識が高い自治体が増えてきているということなのでしょうか?

SDGsや環境問題に対する意識の高さは、自治体によりけりですが、意識が高い自治体の方は本当によく考えられていますね。人口規模が小さい地方自治体の方が、危機意識を強く持っているためか、よく検討されている印象があります。持続的に地域を守っていくためには、魅力的なまちづくりをして、人口増やし、収入を増やして、経済活動もしっかりと回していく必要がありますので。

なお、個人的な意見ですが、今後、日本の人口を増やすというのはなかなか難しいのではと思っており、人口減少はある程度、所与の条件として受入れ、少子化対策のみに腐心するのではなく、どうやって経済を循環させていくか?という議論もとても大切だと考えています。データで見れば結婚も以前に比べれば遅くなる傾向が顕著であるなか、1家庭の子供の数を増やしていくことはなかなか難しいのではないかと。

ただ前述の議論は、日本の全体人口が増えることはないのでは、という意味であり、都市に一極集中した人口の分散化はあり得るでしょう。最近のコロナ禍の社会変化の中で、都市部からの人口流出は実際に起こっているようですので、地方に移り住む人の獲得を目指した魅力的な街づくりは大切ですよね。私も東京と小田原で2拠点を行ったり来たりの生活を送っていますが、実は、いま小田原も人気が出てきていまして、不動産のお問い合わせランキングもかなり上位に位置しているんですよ。房総とか、海の方も人気が出ているようですね。

―― 近年、地域新電力の立上げが相次いでいると感じますが、どういう背景があるのでしょうか?

小田原市に関していいますと、実は2011年の原発事故に端を発しています。各地で農林水産物から放射性物質が検出される事態がおこり、蒲鉾やミカンなど多くの伝統的な農林水産物の産地である小田原でも、危機意識が非常に高まりました。例えば蒲鉾であれば地元の水がとても大切ですが、水がやられてしまえば生業が崩壊してしまうとの危機意識に始まり、原発事故後の電力不足等の問題にも焦点があたり、エネルギーシステムの自立を求める声が高まったのです。地域の再エネ事業を担うほうとくエネルギーはこうした機運の中で誕生しました。

湘南電力は、2014年創業時はエナリス99%、湘南ベルマーレ1%で立上げ、私も一時期社長もやっていたのですが、小田原市の課題解決も大きな目的の一つとしていますので、今は80%が小田原の資本です。ガソリン輸入のように海外に富を流出させるのではなく、地域内経済循環を大切にし、地産の再エネ電力で走る車というコンセプトも当時からありました。

地域新電力の立上げは、大きく2パターンに分類されると捉えています。1つめのパターンは、大手企業が事業目的で立ち上げるケースです。大手資本は地元の課題に対する理解度も地元の人に比べれば乏しいし、本気度も十分でないこともあり、このパターンはなかなか上手行かない印象です。2つめのパターンは小田原市のケースと同様に、地元の人が本気で地域課題を解決するために、地域新電力に取り組むケースですが、この場合には、自ら課題解決のために新電力という手段を選択しますので他力本願となることはありません。大手企業がパートナーとして入ることもありますが、このように地元の人が本気で取り組んでいる地域電力は上手くいくケースが多いのではないでしょうか。もちろん大企業が入ったからすべてがだめというわけでありません。

―― 日本は、中国や欧米と比較して、EV導入が進んでいない現状もあると思います。日本市場でEVの導入台数を伸ばしていくにはどうすれば良いでしょうか?

現状は、まだ車種も少ないし、爆発的に拡大とはいきませんが、多くの自動車会社が製品を出し始めており、価格帯も少しずつこなれてきているため、パイとしては増えてくるだろうなーと考えています。テスラのModel 3のような魅力的なEVが250万円くらいで買えるようになったら、日本の消費者も本格的に購入し始めるのではないでしょうか?今はまだ消費者にとって魅力的な車種が少なく、適当な価格帯で提供されていないということだろうと思います。

また日本市場に関しては、EV市場が大きくなると、既存のガソリン車のサプライチェーンが大きな打撃を受けるという事情も考えられ、EVに積極的になれないのではないかとも推測します。ただ、世界のEV化の潮流は凄まじいものがあり、遅かれ、早かれ、ガソリン車の時代に築かれた従来型の大手自動車会社を頂点に据えたピラミッド構造は変容していくのだろうと思います。

なお、低価格のEVという観点で考えると、中国勢のEVも気になるところですが、日本人は中国製のEVには乗らないのでは?という見方を持っている方いました。EVのシンプルな構造を考えると、同じCATLの蓄電池が搭載されているのであれば、そう変わらないはずでもあり、興味は持っています。

―― ちなみに、再エネ電力で充電したEVカーシェアリングというサービス自体が、非常に新しい取組みであると感じていますが、再エネによるEV充電という仕組みはどうやって構築しているのでしょうか。

実は、EVへの再エネ電力の供給というのは、同時同量や再エネ証書など正式な環境価値の調達手段を介して実現しているわけではなく、まだ目安的に表示している状態なのです(笑)。建物のオーナーさんと相談して、建物の負荷設備として駐車場に設置させて頂いておりますが、充電器そのものの消費電力量(kWh)を検定付きのメーターで計測しているわけではありません。建物オーナーさんが契約している電力会社との契約から、当該電力会社の再エネ比率を参考にお示しする形ですので、湘南電力の再エネ100%メニューを契約しているお客様であれば、再エネ100%と言えますね。

湘南電力は屋根貸しで、初期コストなしで再エネ電力供給という流行りのビジネスモデルを展開していますが、こういうケースにおける再エネ充電の比率は、予測発電量からEV以外の負荷分を差し引く、という具合に、みなし計算をしています。出来れば、充電器そのものにメーターを付けて正しく計量したいですよね。次世代スマメ検討で計量法も緩和されて、スマートメーターが安価になれば良いなとは思います。現在は、商用で使われている急速充電器も、1回30分間の利用でいくらという課金スキームで実際の充電電力量(kWh)を見ていなかったりしますよね。電池が温まっていると、それほど充電されていないのに、時間単価で同様に課金されてしまうといった課題もあります。

―― 地産地消の再エネ×EVによる移動の限界費用ゼロ社会を実現しようと思うと、地域配電網の在り方にも課題があるのではないかと思いますが、こう変わっていくべき、という考えはございますか?

最近小田原市の地域マイクログリッドプロジェクトの補助金事業に採択を受けたのですが、既存の電力系統を活用するために、東京電力パワーグリッドにもご支援いただいています。非常災害時には、配電網の末端部分を切り離して独立運転可能なマイクログリッドを構築する構想なのですが、ワーケーションのサービス展開しているいこいの森というキャンプ場周辺の一体が対象エリアとなります(※注釈2)。マイクログリッド内の電源容量はトータルで50kW程度と小規模ではありますが、太陽光と大型蓄電池とEVやGPUユニットを置いて、調整力としても活用し、災害時にはグリッドを切り離し独立運転し、避難所として活用しようという構想になります。一方、配電網内にはさほどまだ電源設備がありませんので、湘南電力は太陽光パネルの第三者保有モデルで家庭用の太陽光パネルを増やしていく事業を展開して、配電網内に電源を確保しようと取り組んでいますし、弊社としては、EVを提供し、VPPとして使えるようにするモデルも検討しています。このように地域課題を解決するために、地域ニーズに沿った形で事業展開するのが地域新電力や私達のような事業者のあるべき姿であると考えています。最近は配電事業ライセンスの議論も始まっていますので、地域マイクログリッドのプロジェクトを通じて得られた知見を役立てたいですね。

地域配電網の在り方に対する要望を敢えて挙げますと、もう少しデジタル化が進んでも良いのではないかとは感じますね。災害発生時にも、末端の状態が見えないため、事故点が判定に苦慮しているという話ですし、手動で開閉器操作というオペレーションも自動化できないのかなと思います。最近、自然災害が深刻化してきているがゆえに感じている部分もあると思いますが、レジリエンスを十分に高めるためであれば、配電費用は高くなっても良いのではと感じます。地域によって、送配電費用が違うという状態も受け入れていく必要があるではないでしょうか。多少、電気代(配電費用)が高くてもレジリエンス対策の徹底した地域に住みたいというシナリオもあれば、人口減少地域においては、インフラ維持のために電気代(配電費用)は値上げせざるを得ないというシナリオもあり得ると思います。

―― 同じく、充電行動の在り方も重要になると思いますが、移動の限界費用ゼロ時代のEVの充放電行動はどういう姿になっていると考えますか?また、そうした姿を実現するためには何が必要でしょうか。

電力とモビリティが融合していくためには、モビリティシステムの挙動をより深く理解する必要があります。EVを活用したV2Gの実証試験も、EVがそこに存在することを所与の条件として付与していますが、実際には停車していないケースもありますよね。私達は、モビリティの稼働データを大量に収集し、AIにより分析・予測を繰り返して、予測精度を高め、EVの蓄電池をVPPリソースとして使いたい時に使えることを、システムとして担保することを目指しています。モビリティデータと一言で言っても、車種、電池のSOC、用途、天候など、多様な変数がありますし、移動パターンは地域の社会システムとも密に関わりますので、地域性もあります。どれだけ予測精度を高めたとしても、予測外れや離脱等は想定され、100%は当たりませんので、母数を高めることで予測値からのブレをなくすことも重要です。

EV用の電池を放電して、電力供給サービスとして活用することは、近い将来、技術的には当たり前になってくると思います。EVが社会から受容され、保有・リース・カーシェアリング等の多様な形態で、電力リソースとしても当たり前に利用される時代の到来に備え、今のうちから、しっかりデータを蓄積しておくことが大切です。

―― 御社の描くEV社会を実現していくために、充電器の配備状況はどういう姿が理想でしょうか?

私自身もEVを使っていますが、急速充電器は、数はそこまで必要ないのではと思っています(地方にはまだ整備が必要です)。スマートフォンの場合、あらゆる場所に充電のためのコンセントがあり、電池残量が少し減っただけでも小まめに充電される方が多いと思いますが、EVも同様にちょこちょこ充電の世界が良いのではないでしょうか。あらゆる場所に充電用コンセントの口があり、70%までしか減っていないが充電する。都内だと路上駐車できる場所など、どこでも気軽に認証して充電できるのが理想です。3kW・6kW程度の普通充電器は数万円〜20万円くらいで購入できますので、それほどのコストではありません。ガソリンがなくなったら、満タンまで給油するガソリン車のイメージから脱却する必要がありますね。東京電力パワーグリッドのような地域の電力会社が、普通充電器を基礎的インフラとして構築・運営する事業をやると親和性が良いのではないでしょうか。

―― 御社の事業を展開していくうえでの制度、規制面での課題、あるいは市場整備(調整力市場、証書の取引市場等も含む)という観点での課題があれば教えていただけますか。

VPPに関しては、EV1台ずつをVPPの構成リソースとして登録・管理する形態は融通が利かないので、見直したいですね。EV-①は運転中で使えないが、代わりにEV-②が使えるという具体に、全体システムとしてVPPを組めれば良いと思います。例えば、同一変電所の配下であれば、EV1台ずつの動作を見るのではなく、全体のEV群でパフォーマンスを出せば良いとするとか、技術的にも、仕組み的にもより実践的なやり方はあるだろうと思います。

あとは、制度に限定した話ではないですが、失敗を恐れて挑戦しないのは良くないと思います。深センでは、車からEVが火を吹いている光景を見るとも聞きますが、失敗しないと前に進んではいけませんよね。自動運転にしても、これから挑戦の時代を迎えるわけですが、自動運転中に事故が発生したという事実だけを切り取って、技術や制度の失敗として強調して取り上げられ、身動きが取れなくなるシナリオも想定されます。自動運転による事故が起こったとしても、同様に、自動運転の導入により無くなった事故もあるはずですので、全体としてどういう影響が見られたのか?をフェアに、フラットに評価する必要があります。そのためにもモビリティのデータを収集し、しっかり見えるようにしておくことは大切ですね。

(終わり)


注釈】

注釈1:
地域循環共生圏とは、2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画において、国連「持続可能な開発目標」(SDGs)や「パリ協定」といった世界的な潮流、複雑化する環境・経済・社会の課題を踏まえ、提唱された考え方。各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら、自立・分散型の社会を形成しつつ、地域特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す。
https://www.env.go.jp/seisaku/list/kyoseiken/index.html

注釈2:
REXEV社は、リモートワーク等の柔軟な働き方への転換が進む中、脱炭素型地域交通モデルと新しいライフスタイルの実現を目指し、小田原市と提携して、EVカーシェアリング「eemo」を活用したワーケーションサービスを展開。いこいの森キャンプ場にて、EV電源を活用したリモートワークを行い、ワーク終了後はBBQを楽しみ、テントで就寝というパッケージを提供している。
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/field/envi/energy/electric_vehicle/workation.html


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記事執筆日: 2020年11月24日

執筆責任: GreenTech Labs