経済産業省と考える、これからの日本のエネルギー・環境政策・ビジネス【CIC energy vol.2】開催レポート

12月14日、エネルギーテック勉強会 / Energy Tech Meetup / GreenTech Labs / CIC Tokyoの4団体共同開催イベント「経済産業省と考える、これからの日本のエネルギー・環境政策・ビジネス【CIC energy vol.2】」を開催しました。

当日は下記のような内容をお届けし、GreenTech Labsではパネル②のモデレーターを務めさせていただきました。

  • 経済産業省によるエネルギー政策の紹介① 2050年カーボンニュートラルに向けた政府の動向
  • パネルディスカッション
    • パネル① エネルギー業界の革新を支えるオープンイノベーションの取り組み
    • パネル② 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて我々は何をすべきか
    • パネル③ エネルギーの未来の話をしよう
  • 経済産業省によるエネルギー政策の紹介② 2050年カーボンニュートラルに向けた国際動向

以下ではパネル②「2050年のカーボンニュートラル実現に向けて我々は何をすべきか」での議論を紹介させていただきます。

 

パネル②「2050年のカーボンニュートラル実現に向けて我々は何をすべきか」

【登壇者】
竹内 純子 | U3イノベーションズ合同会社 共同創業者・代表取締役
服部 倫康 | Waara株式会社 代表取締役CEO
荒井 次郎 | 経済産業省 産業技術環境局 環境経済室
(モデレーター)安岡 充昭 | GreenTech Labs, 東京電力パワーグリッド 海外事業推進室 海外戦略マネージャー

当日の様子。パネリストの荒井さん(写真手前)とモデレーターの安岡(写真奥)はCIC Tokyoのオフィスから、それ以外のパネリストの方はオンラインからご参加いただきました。

【ディスカッション】

2050年カーボンニュートラルの実現に向けてイノベーションを起こしていく必要があるものの、日本とでは大学や研究機関での研究が事業に結びつき辛かったり、スタートアップに取り組む母数も少なく、イノベーションが起こり辛い。開発された技術や研究成果が社会実装に結びつき、新たな事業を起こりやすくするにはどうしたら良いか?

(荒井氏)

  •  経営者のコミットメントが重要。既存ビジネスの延長で物事を進めていった方が事業の成功確率も高く事業運営も楽。そんな中で既存ビジネスからジャンプしてイノベーションを起こすためには、経営者自らが周囲の雑音から新規事業に取り組む従業員を体を張って守る、そういった覚悟を示す必要がある。この課題は役所にも通じるものだと考えている。
  • 大学の研究は教員の嗜好に依るところも大きい一方で、民間企業に転用できる技術も多くある。研究成果を社会実装により近付けるためにも、シミュレーションモデルの活用など、研究成果を企業に受け渡しやすい形にまとめる必要があり、そのような仕掛けを作ることも重要。

(竹内氏)

  • エネルギーはどこまでいっても手段でしかなく、詰まるところコストの議論に落ちる、ということを自覚することが重要。その上で、顧客目線で物事を考える必要があるのでは。例えば、次世代の車について議論する際に、バッテリーで走るの車なのか、水素で走る車なのか、そういった議論に陥りがちだが、車を買う顧客というのはそういう視点で物を買わないのでは?そうではなく、その車を買うとどういう楽しい体験が得られるのか?という視点で商品を選んでいるはず。エネルギーシステムをはじめとする社会を変えるためには、(エネルギーに元々関心を持っていない人も含む)万人を動かす必要があるため、顧客目線を持たずして社会を変えることは出来ない。
  • 2050年カーボンニュートラルの目標達成に向けたイノベーションを起こしていくに当たって、大きく3点課題があると考えている。
    1. 規制にPhilosophyがない。何を市場に任せて、何を制度設計側でけん引していくのか、そこの棲み分けを明確にすべきでは。
    2. 目標達成に向けた全体戦略がない。将来のことを今時点で決め打ち出来ないから、可能性を広く持ちつつPDCAを回していく必要があることは確かだが、動かしようのない中心軸というものもあるはず。例えば、大幅な低炭素化のセオリーは、電化×電源の低炭素化の同時進行であるはず。その内、電化の推進は産業や市民生活の変革も必要とする部分であり、そこをどのように進めていくのか、全体戦略が見えてこない。
    3. イノベーションとインベンション(invention, 発明)の区別をつけるべき。「日本は技術を通じて世界をリードしていく」といった発言も多く聞かれるが、かなり漠然としている。2050年カーボンニュートラル実現のためには、新しい技術のインベンション(発明)だけではなく、既存技術をあともう一息(3%とか、5%とか)改善してコストを低減する、といったコスト低減、利便性向上も技術の普及には非常に重要。そういった努力をする担い手をどのように育成していくか?という点も考える必要あり。

(服部氏)

  • やってみないと分からないことも多いので、仮説をもってまずやってみることが重要。新規事業の立ち上げもそうだが、最初に想定していたプランがうまくいくことはまずない。なので、計画ベースで机上でばかり議論していても仕方がない。プランA、プランBをもって取り組む、というよりは、失敗した際のリカバリープランを考えながら進める、という方策が正しいかもしれないが、何よりもまず試行をしながら新しいものを創造していく、ということが重要。

 

2050年カーボンニュートラルの目標達成に向けて、政策として制度で担保すべきこと、市場に任せるべき領域、消費者が行動を変容すべき点、それぞれに果たすべき役割があると考えられるが、どういった役割分担が求められると思うか?

(荒井氏)

  • 環境問題に関する価値観調査の結果を見ると、北欧との比較では日本の環境意識は低い場合が多く、また「分からない」といった回答も多く見受けられ、消費者がじっくり考える機会が今までなかった部分もあると思う。環境意識については、地理的な条件・文化による違いが大きく現れる点のように感じるが、だからと言って何もしなくても良い訳ではなく、また海外の制度や文化をそのまま取り入れれば良いというものでもない。
  • パラダイムシフトを起こす3つのレイヤーとして、①潮流、②社会システム、③技術があると言われており、どのレイヤーが変化をけん引するかは課題や状況に依って異なる。今回のカーボンニュートラルの課題に当てはめて考えてみると、①については世界的な潮流が既にあり、③についてはスタートアップ等がけん引し、②の社会システムを変革する活力となってくれることを期待したい。消費者行動は②の社会システムに含まれるが、そこについては例えば炭素価格(Carbon Pricing)の導入は、炭素の価値を見える化することによって消費者や生産者の行動を変えられるかもしれない。

(竹内氏)

  • 経済活動全体に対する(economy-wideの)炭素価格導入は必要だと思う。環境外部性を内部化すること(環境負荷に対する費用負担を市場メカニズムに組み込むこと)は必須であるが、それを実現するためにはまず複雑な現行制度を一旦破棄した上で新しく制度を設計すべきであると考えている。
  • 炭素価格の導入方法については、大まかに排出量取引と炭素税の2つの方法が考えられるが、前者は計画経済的な取組であり、どの産業に適用するか、どういった目標値にするか、等、適切な設計が非常に難しいし行政コストや取引コストが肥大化する。税制中立を図ったうえで経済活動全般に対する炭素税の導入が適切。
  • 環境意識については、日本の意識が欧州に比べて低い、ということはないと思う。(アンケートの取り方にもかなり依存する。)

(服部氏)

  • 日本人の環境意識が他国に比べて低いという認識はもっていない。
  • ドイツやスイスに比べて認識している差異としては、カーボンオフセットが個人の税控除に使える等といった制度面の成熟度の違いがある。文化的な意識の違いに着目するのではなく、制度を使って消費者を動かす仕組みづくりの差異に着目すべき。
  • 気候変動対策に対する企業の動きとしては、パリ協定の合意以降、金融機関がその思想に則って投資先の選定をし始めたため、事業に対してお金が付く/付かないの観点が気候変動対策への意識づけに役立っていると感じる。但し、資金調達やIR担当者の意識づけには役立っているものの、経営トップまで意識が浸透していないことが課題。投資家は直近のCO2削減実績よりも、事業戦略自体が気候変動対策の方向性と整合しているか、という点を重要視するため、今後金融機関の動きが事業戦略レベルまで影響を及ぼしていくことで、民間企業の脱炭素化の動きがもっと加速していくのではないかと考えている。

 

当日ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。ご意見・ご感想などをアンケートや当Webサイトコメント欄から頂けますと大変励みになります。また、次回以降のイベントの参考にさせていただきます。

(終わり)


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記事執筆日: 2020年12月1日

執筆責任: GreenTech Labs