風を求めて移動する風車 ~自動航行ヨット型ドローンで描く新たな洋上風力発電の形~

まーきち@エネルギー業界1年生の先輩探訪:第2回 菅野優さん(後編)

浮体式の交差軸風車という風力発電技術を武器に、自律航行を行うヨット型ドローンの開発に取り組んでいる株式会社OKYAの菅野優さんの後編です。前編では、菅野さんの人となりに焦点を当てましたが、後編では、自ら開発された技術に対する熱い思いを語っていただきました。

OKYA代表 菅野優さん

――菅野さんは、元々、大企業で技術者をされていたとのことですが、独立に至った経緯はなんでしょうか?

私は、独立する前は日立電線という会社で17年ほど技術者として働いてきました。日立電線は、名前のとおり電線・ケーブルを製造する以外にもいくつも事業部門があって、その中のひとつに薄型テレビとか携帯電話に使われる基板の設計、製品開発をやっている部門がありました。私自身は液晶の駆動ドライバーを載せる配線基板の設計・開発に長く取り組んできました。元々は、電力分野への興味が強く、電線に関わる仕事をやりたかったのですが、私が入社したタイミングは残念ながら、当時の社内方針により電線の部門への配属はなかったのです。というわけで、今取り組んでいる洋上の風力発電の仕事は、前職で携わった技術領域とは全く関係ありません。
私は福島県楢葉町出身です。東京電力の福島第二原子力発電所と広野火力発電所に挟まれた町です。小さな頃、将来の職業として発電に関わる仕事をイメージしていました。そのころ、波力発電や潮流発電など自然エネルギーを利用した発電方法があることを知って、自分も新しい発電方法考えられないかな、と思ったこともありました。そういった過去の思いが影響したのだと思います。
会社に入ってから職場の先輩の紹介でウインドサーフィンに行くようになりました。ウインドサーフィンってセイルに風を受けて進みますので、風がある場所じゃないと楽しめませんよね。例えば千葉では良い風が吹いているのに、自分がいる茨城まで届かないというケースもあります。アクティブなウインドサーファーには自分で天気図を見て、風が吹きそうな場所を分析して、乗りに行く場所を決めている人もいます。天気図予想を見て、何時頃には等圧線の密なところがここだから風向きがこうだとか、何時くらいに前線が通過するから、といった具合に、いつどこでどう風がふくかを真剣に予測するんですよね。陸上だと、山地やビルなどの障害物等の外乱が入るので風を予測するのは難しいのですが。海の上には遮るものもないので、気圧配置図通りに割と素直に風が吹くという話は船乗りのウィンドサーファーから聞いたことがあります。
天気次第で、風が吹かないと回らないという原則は風車も同じじゃないですか。ウインドサーフィンをやっているうちに、風車も効率的に発電するためにウインドサーファーと同様に風がある場所に移動できたら良いな、と考えるようになりました。オリンピックのセイリング競技の様子を見ていただくと分かりますが、ウインドサーフィンってセイルを使って、風をセイルの表側に当てたり、裏側から当てたりすることで、水の上で同じ場所に居続けることも出来るんですよ。ということは、水上を動く風車も、風を使って移動したり、同じ場所に留まっていたり出来るのではないか。こうして、ウインドサーフィンから着想を得て、今の事業に取り組んでみようと思い至りました。

――着想を得ることと、事業立上げという行動を起こすことの間には、乗り換えなければならないギャップがある気もするのですが、どのようにして事業立上げに踏み切ったのでしょうか。

そうですね、確かに着想を得ただけで、突然会社を辞めて起業するほどの勇気はなく、前職で働いていた頃から、試作品開発等の作業は始めていましたね。簡易な試作品を使って湖に浮かべてみたら、思い描いていた通りに、同じラインを行ったり来たりしてほぼ同じ場所をキープしてくれることまで確認しました。またこうした技術の特許を取るところまで前職中に済ませていました。技術的にやれそうであるという手応えを得たうえで、会社を退職したということですね。ただ、恥ずかしながら、確かめたのは技術の実現性のみで、ビジネスモデルについては、深く考えないまま起業に踏み切ってしまいました(笑)。
なお、回転軸を風向きと交差する構成にした風車は、屋根の上に固定するタイプなどは海外に存在するようですが、風向きの変化には追従できません。水上に浮かべて係留して使う風向追従式のものはありませんでした。試作品の設計・開発に際しては、プログラム作成、電子工作といった作業も全て自分でやっています。3Dプリンタが手軽に使えるようになり、個人でもこうしたハードウェア試作の仕事も、かなりやり易くなりましたよね。

――技術領域が多岐に渡る開発から試験までを一人で手がけるのは、相当大変なのではないでしょうか?

申し訳ないのですが、想像されるほど大変な想いはしておらず、とにかく日々が楽しいですね。寝る直前まで明日は何をやろうか!と考えながらワクワクしています。前職の時も開発はやっていましたし、明日は何をすべきかと考えることは当然ありましたが、前職時のそれはさほど楽しい作業ではなく、だいたい寝落ちしてしまっていましたね(笑)。ここまで楽しみながら仕事が出来ているのは、好きなことをやれているから、というのもありますし、自分の頭の中にしかない構想に、希望を持って取り組んでいるからだと感じています。いつかできたら本当に凄いよなーと想像しながら仕事をするのは本当に楽しいです。

――OKYAの公式ウェブサイト上に未来イメージが書かれていますね。理想の未来の実現に向けて、今後、どういう製品開発、市場導入のタイムライン、パスを描いておられるのでしょうか。

小型の試作機を動かすことはできましたが、大型風車を作るという話になると、自分ひとりでは到底対応出来ませんので、協力してくれるパートナーを探すことが今後の重要なミッションです。とは言いつつ、まだ開発中の段階ですので、まずは小規模でも試験導入等の事例を作っていきたいと思っており、山間の水質調査をしている会社等と使えそうな用途がないかを相談したりしています。山間に設置される機器は独立電源が必要ですが、日射時間も少ないので太陽光パネルだけだと限界がありますからね。
というわけで、風車関係ではまだ売り上げは立っておらず、これから顧客・パートナーを開拓しなければならないフェーズですので、本業の風車開発にも役立ちそうな領域で、プログラムの受託開発等の仕事もしながら日々生活しています。

――交差軸風車とシバーリングいう同じ技術をベースにしたヨット型ドローンは大規模化しても同様に使えるのでしょうか。大規模化するにあたっての制約はございますか。

試したことがあるわけではないですが、大規模化しても原理としては動くと思っています。一般に高い位置ほど風速は大きくなりますので、交差軸風車を使えば、起動性としては風の速い側(高い位置)で風を受けて、風の遅い側(低い位置)で羽根が戻ってくることになり、大規模化した方が高度差によるメリットが得られるとも考えています。垂直型の風車だと、左右で同じ風速なので同様の効果は見込めません。
風車の受風面積の設計の自由度が増えます。プロペラ型風車はブレードの長さを変更するしかありません。交差軸風車の場合、回転径と横幅とで2つの方法で変更することができます。仮に、風車を複数の小規模型に分割するとします。プロペラ型風車の場合には、円型を縦横に敷き詰める方法になります。交差軸風車では横長の風車を縦方向に並べて発電機の数を増やしすぎないなど、適度な設計が出来るという考えもできます。
設計が出来ているわけではないですが、大型化して移動させる際はバッテリーや水素等の電力貯蔵設備と共に載せることを考えています。風が吹いている場所まで移動して、発電・充電した後に戻ってきて電力供給するといった使い方であれば、風力発電機は高い設備利用率を実現できるのではないでしょうか。

――セイルに生じた抗力を水の抵抗力で相殺することで、ヨットは揚力で進むことができるとありますが、風を使って移動しながら、行きたい場所へ行くことは可能なのでしょうか。

セイルボートは、理論的には風上45度までは上れると言われています。基本的な仕組みは同じですので、風向きをしっかり読むことが出来れば、航行ルートを設計することは可能と考えています。風向きについては、台風発生時に一週間分くらいの予想進路が出ていますよね。その程度のスパンの天気予想図でもあれば、ルート設計に利用できると考えています。等圧線の配置が読めれば風向きと風速を予測することができます。風が吹く場所を探して移動するというのもありますが、風力発電船にとって何より大切なのは、台風のように船が壊されるような天候を避けることです。台風が近づく時期が来たら、被害の及ばない海域まで予め避難するといった運用が必要になるのではないかと考えています。無人の自動運行で地域を移動する際に、どんな制約があるかというのは、まだきちんと調べられていないのですが。船の上にGPSセンサーを取り付けて、船の位置を把握すると同時に、風向・風速の適したルートを調べつつ、ここへ行きなさいという指示を与えることは技術的に可能です。自動航行船や伸縮硬帆船は国内外で既に開発が進められているという話もニュースで見ました。海上でも衝突回避の研究も行われているようです。風力発電船も出来ないということはないと思っています。
ちなみに、風を受けて進むことは出来ますが、海流、波の影響はそのまま受ける、つまり流されることになります。海水浴でカレントに流されるのと同じ要領で潮の流れを横に抜けてから戻ってくるといった動きを取る考え方かなと思います。あるいは、海は大きな”流れるプール”と見ると、いずれ戻ってくる、と考えるのは乱暴すぎるでしょうか(笑)。巻かれるほどの波が起こるのは主に沿岸部だと思いますが、波が激しくなる海域や気候条件は学習を積み重ねて、先の台風と同じく近寄らないようにする運用設計の配慮も必要ですね。

 


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記事執筆日: 2021年2月5日

執筆責任: GreenTech Labs