大阪でドローンスタートアップに取り組む米国からの挑戦者

ネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第23回
大阪でドローンスタートアップに取り組む米国からの挑戦者

今回のゲストは、2年半ほど前に、海外からやってきて大阪の地でドローン事業を立ち上げた起業家のAsa Quesenberryさんです。日本のドローン市場や規制動向、今後期待できるユースケース、海外から来た起業家が日本で感じる課題など、興味深いお話を沢山聞かせて頂きました。

Asa Quesenberryさん(Dronext 代表)

--まず、最初にDroNextの事業内容を簡単に教えていただけますか?(※参考1

私は2年半ほど前から大阪を拠点にドローンを活用した事業を展開しています。米国をはじめ、ドローン事業の歴史がそれなりに長い国もありますが、日本は、まだまだ始まったばかりの状況ですので、私達は、日本のドローン業界を盛り上げていくためのハブ的な役割を担っていきたいと考えています。規制環境の整備も急速に進んできていますし、非常災害対策や再生可能エネルギーの設備点検など、市場が大きくなるのはこれからです。

私達は、「①空中ドローン」、「②水中ドローン」、「③ネットワーク事業」という3種類の事業に取り組んでいます。

空中ドローンは皆さまもイメージをお持ちと思いますが、水中ドローン事業はあまり馴染みがないかもしれません。文字どおり、水中を移動するドローンです。水中ドローンを活用することで、例えば、洋上風力発電所等の設備の空中部分から水中部分まで、設備全体の点検を一括で請け負うことが出来るようになります。洋上風力設備以外にも、養殖の設備、港湾や橋など、色々考えられますね。地球温暖化による海面上昇等の課題もあり、今後、沿岸部においては、水陸に跨る設備は増えていくのではないでしょうか。

ネットワーク事業というのは、私達がドローンサービスの提供者となるだけでなく、例えば海外から日本進出を狙う事業者に対して進出支援など、日本におけるブリッジ役を果たすサービスです。ドローン映像を解析するソフトウェアなど、優れたソリューションを持つ会社は海外にも沢山いますし、海外プレイヤーが活躍できそうなニーズは日本各地に見られますが、言語の壁、地元事情の理解不足等の事情により、海外プレイヤーが実際に事業展開するのは容易ではありません。そこで、日本に拠点を構えて事業展開する私達がハブとなり、日本におけるドローンエコシステムの創出に貢献していきたいです。

例えば、シンガポールに拠点を構えるBrain Pool Tech(※参考2)というドローン映像をAIで解析するスタートアップともパートナーとしてやっていますし、最近、イスラエルのスタートアップとも提携しました。海外事業者にとって日本市場は難易度が高いので、ネットワーキング、マッチメイキングを支援する仕事にも大きな価値があります。各地域にトレーニングを行う学校や、小規模なドローンサービス事業者も増えてきていますので、そうした方々との繋ぎの役割も重要です。私達だけでドローン業界の盛り上げは出来ませんので、自ら足として動き回り、優れた他社サービスも合わせて展開支援することで、より強固なドローン市場を創っていきたいです。

--何故ビジネスの舞台として日本を、大阪を選んだのでしょうか?

過去に、バンクーバーに住んでいた頃に、日本に6か月程度滞在した時があったのですが、その時は、ビジネスをする目的で来日したわけではありません。歴史と文化の学習半分、旅行半分くらいの目的だったのですが、その頃の経験が日本をよりよく知ることに繋がり、日本での起業を後押ししたのは間違いありません。

大阪は、日本の中で中核的な都市であるだけでなく、海外から来た人を受け入れるコミュニティがあります。大阪の人はみんな話をするのも大好きですから、日本語の練習にも最適ですよね。東京は少し人と人との間に距離感があり、外国人が入り込むコミュニティという意味では少し難しさを感じました。私はコミュニティがある地域に住んで、多くの人たちと繋がるとともに、ビジネスを通じて、コミュニティに貢献していきたいという思いが強かったのです。

私の家族は、起業家精神が旺盛な人が多く、父親も自分の事業を起こしています。私は大学時代にドローンを使った都市計画に取組み、その後バンクーバーでも、点検やマッピング、農業など、ドローン事業に関わりました。日本のドローン市場を調べてみると、他国と比べても遅れ気味であるということが分かり、私が貢献できる領域が十分にあると感じたのです。米国のドローン業界は2000年過ぎ頃から市場が広がり、今では多くのプレイヤーがひしめき合っており、ドローンサービスで新たな挑戦をする場として、良い環境とは言い難い状況です。

--日本のドローン業界の課題はなんでしょうか?

大きな課題は、国の免許制度がないということですね。日本でドローンを飛ばすには、国土交通省の許可証が必要となりますが、この手続きは多くのペーパーワークが必要で時間もかかります。2020年末にDIPS(※参考3)というシステムが導入され、このシステムを使えば、ドローン、操縦者、また加入している保険など、電子申請を行えば1年間の許可証を得ることが可能となりますので、利便性は確実に向上してきてはいます。また、先日ドローンの操縦に関する免許制度を創設する方針を決めたと政府の発表がありました。2021年の通常国会に航空法改正案を提出する方針とのことです。これは本当に良いニュースです。

免許制度が整備されていないがゆえに、ドローン事業者からサービスを受ける顧客側が混乱しやすい状況にあるというのも課題です。今はまだ国の免許制度はありませんので、ドローンを飛ばすために法的に求められる唯一のものは、国土交通省が発行する許可証です。一方、各ドローンスクールも修了ライセンス等を発行しますので、この修了ライセンスがあれば法的にドローンを飛ばす許可が得られるという誤解をしてしまう方も出てきます。国の許可証を見せてもドローンスクールの修了ライセンスはちゃんとあるのか?といった対応を受けることがあります。国の免許制度が整備されて、サービスを提供する側も受ける側も、混乱なくドローンを活用できる日が来るのを心待ちにしています。

実際にドローン操縦に取り組む風景

--日本市場で感じている課題はなんでしょうか?

海外から来た人達はみんな感じていることだと思いますが、やはり語学の壁は大きいです。私も日常会話は問題なく話せるようになってきましたが、ビジネスで求められる敬語等は難しいです。ですので、最近新たに日本人社員が加わってくれたのは本当に嬉しいことです。

新規顧客へどうコンタクトするか?というのも難しいところですね。毎日200名の顧客にひたすら電話をかけ続けるといった米国流のアプローチは日本では全く上手くいきません。また海外から来て、まだ2年半ほどしか経たない25歳の若手起業家をそう簡単に信頼してはくれませんよね。やはり個人的な人間関係が凄く大切で、信頼のおける知人からの紹介・推薦というのが日本では一番上手くいくと感じています。信頼を得るというのが最も大切なことだと考えています。

大阪イノベーションハブのように、政府主導のスタートアッププログラムも徐々に立ち上がっており、こういう場を活用するのも大切であると思いますが、まだ立ち上がり途上で海外から来たスタートアップが利用しやすい状態が構築されるにはもう少し時間はかかるという印象です。

ひとつ米国の方が良かったと思える点は、挑戦することを応援する文化ですかね。やや保守的なカルチャーのある日本と比較すると、米国では、何か新しいことに飛び込んで挑戦してみるというのは当たり前のことであって、それを快く応援・支援することもまた自然なことと捉えられます。と言いつつ、別に深刻に捉えているわけでは全くなく、最近すごく感じているのは、日本でもIT時代に生まれた若い世代の方々が社会に出て色んな挑戦をしており、間違いなく新しい風を吹かせ始めているなーということです。

--ドローン業界でのエコシステム作りを志向されていると伺いましたが、どのようなプレイヤー、ビジネスモデルが存在するのでしょうか?

まず、最初にドローンはただのツールであり、ドローン業界のビジネスモデルという形容の仕方が適切かどうかは分からないのですが、大別すると、ドローンに関連する事業には、以下のようなタイプがあります。

  1. サービスプロバイダー
    サービスプロバイダーは、例えばドローンを使って指定した対象物の写真撮影、ドローンで撮影した映像データの解析といったサービスを提供し、それに対する対価をもらうという事業で、最も一般的なものですね。弊社も、ある地域の地形調査の目的で航空写真を撮影するといった仕事を受けることはあります。
  2. ドローンスクール等の教育事業
    ドローンの操縦方法や関連法規等を教える教育事業も増えてきています。正確な数を把握しているわけではないですが、日本にも300校くらいはあるのではないでしょうか。ドローンを扱える人が増えること自体は良いことなのですが、先ほども話したとおり、各スクールが修了ライセンスを発行するために、このライセンスがあればドローン操縦が出来ると勘違いする人が後を絶たないという課題は何とかしなければなりません。商業目的でドローンを扱うには、ドローンスクールの修了ライセンスがあってもダメで、国土交通省の発行する許可証が必要ですので、誤解しないようにしましょう。
  3. 小売、レンタル事業者
    ドローン製品を取り扱う小売事業者、レンタル事業者もあります。DroNextも利用しているドローンはレンタルしたものになります。 商業用ドローンを購入すると、400万円程度と値が張りますので、上手くレンタルも活用していくことが大切です。
  4. 製造事業者
    最後は製造事業者ですね。ドローン愛好家でなくても知っている有名な会社は何と言っても中国のDJI(※参考4)でしょう。当然、シェアもトップです。しかし、最近、米国では商務省がDJIを含む禁輸リストを発表しましたし、インドもDJI製ドローンは利用禁止するなど、DJIの躍進に少し陰りが見えてきていると感じます。日本政府も中国製ドローンを国産ドローンに置き替えていく方針を発表しました。このように、大量のデータを取り扱うドローンはセキュリティ面、政治面からも繊細な取り扱いが求められる商材なのですが、プラスの見方をすると、日本のドローン製造事業者にとっては好機が生まれてきているとも言えます。商業用でなく、個人の趣味としてのドローンでは、依然DJI人気は圧倒的ですけどね。

飛行中のドローン①

--多様なドローン事業者がいる中で、DroNextは何が強みなのでしょうか?

DroNextは、小売事業やネットワーク事業が主力領域ですが、自分達だけがシェアを伸ばしたいとは全く思っておらず、日本のドローン業界全体を活性化させていくことが何より大切だと考えています。高いスキルを保有する人材が増えて、事業機会に繋がっていくことも大切ですので、ドローンスクール等とも協力して、日本にドローン事業の芽を育てていきたいです。各地で信頼のおける事業者紹介、ドローン操縦の仕事創出・紹介といったマッチングサービス、ドローン販売・レンタルの割引といったサービスを提供し、ドローンコミュニティのハブとしてのポジションを獲得したいと考えています。

水中ドローンについては、今はまだプレイヤーもいませんので、何とか市場を創り出して、マーケットリーダーのポジションを取りたいですね。昨年までは、コロナ禍や体制構築等で大変な日々が続きましたが、最近、営業を担ってくれる社員も新たに加わることが決まり、2021年は事業拡大に専念することが出来ますので、とても楽しみです。

--将来、ドローンを活用した新たなユースケースはどのようなものが出てくると考えていますか?

この質問を凄く楽しみにしていました(笑)。考えるだけでも興奮しますよね。既に相当ユニークなユースケースが出てきていますし、この先も色んな新しいアイデアが出てくるでしょう。

  1. デリバリーサービス
    ドローンを活用したデリバリー事業が既に広がりつつあるのは、皆さんもご存じかと思います。アフリカで医療品の輸送サービスを行っているZiplineという会社がありますが、見事にドローンならではのビジネスモデルでマーケットを見つけて、社会に貢献しています。ドローン輸送事業は、近い将来、幅広い領域で広がってくるでしょう。
  2. エンターテイメント
    エンターテインメントが次の注目領域です。2018年頃から盛り上がってきたDRL(The Drone Racing League ※参考5)というドローンレースはご存じでしょうか。ユニークな場所がレース会場に選ばれますので、例えば、未使用となった倉庫等の場所をドローンレース用に貸し出すなど、新たな収益機会を創出するかもしれません。他にも空飛ぶF1と言われるAirspeeder(※参考6)のようなレーシング用ドローンの人気も高まっていますよね。
  3. 再生可能エネルギー
    昨年の菅首相の2050年カーボンニュートラルの宣言に後押しされ、再生可能エネルギーの発電所等の点検等へのドローン活用も疑いようのない巨大市場です。特に日本政府が大型導入を宣言した洋上風力設備は、水上部分と水中部分がありますのが、弊社のサービスであれば、設備全体の点検サービスを担うことが出来ます。
  4. 非常災害対策、復旧
    非常災害対策、また災害発生後の対応でも多様な用途が見込まれます。航空写真を撮影して災害想定マップの作成支援をしたり、災害発生後の被災箇所の調査に出動したり、ヘリコプターの出動手続きは時間も費用もかかりますので、迅速かつ手軽に使えて小回りの利くドローンだからこそ活躍できる場は沢山あります。
  5. スマート農業
    ドローンが人に変わって農地で農薬や肥料を散布したり、作物の生育状況を見たりといった作業を行うスマート農業も大きな市場でしょう。農業従事者不足という課題の解決にも直接的に貢献できますし、農業をより洗練された技術を使いこなすハイエンド産業へと変えることで、若くてやる気のある農業従事者を増やしていくことに繋がるのではないでしょうか。
  6. 空飛ぶ車(Flying cars)
    こうしたドローンタクシーの商用導入に向けて、様々な規制緩和が必要になってくると思いますが確実に進んでいきます。今後10年の間で空の交通網には大きな変化がもたらされているでしょう。ドローンで移動できる日が来たら、例えば、淡路島に住みながら大阪まで30分程度で通勤することが可能になりますので、本当にワクワクしますね。私は、単に大型のドローンだと思っていますので、Flying carsという呼び方はあまり好きではないのですが、ボーイング、エアバス、ウーバーを中心に空飛ぶ車の開発も熱を帯びています。日本でも25-30社ものスタートアップがドローンタクシー関連の技術開発に取り組んでおり、かなり実用化に近いところまで来ています。2023年には大阪でもドローンタクシーが運用開始される予定となっています。

飛行中のドローン②

--再生可能エネルギーの発電所の設備点検にドローンを活用することで、具体的にはどういう利点が期待できるのでしょうか?

一般的には以下のようなメリットを期待することができ、プロジェクトの規模が大きいほど、ドローン活用により得られる利点も大きいと考えています。

  • 設備点検に費やす時間を、大幅に(80-90%程度)削減することが出来る
  • 現地で人が目視をするのに比べて、遥かに正確なデータを取得することが可能。またそれらを分析することで精緻に状態把握をすることが出来る。
  • 人の経験や能力に依存しないため、設備点検作業の再現性が確保できる
  • 人為的なミスがなくなる。例えば、風力タービンの点検では人が目視点検するよりも20-30%以上多くの発見(傷等)が得られるというデータあり。
  • 高所作業等の危険作業に従事する時間を減らすことが可能。
  • 発電機を停止する時間も削減することが出来る。

人の作業を減らすことが出来るとなると、仕事が奪われるのではないか、という議論になることもありますが、ドローンのセットアップやデータ解析はじめ、人が従事するのに適切な、より高度な仕事が出てくると思っています。自動運転が広がってきても同じことが言えると思いますが、人が行う仕事は、自らの足と目を使って現場での点検作業そのものを行うというよりは、利用する機器・システム、データの運用保守の方向に向かうのではないでしょうか。

--それでは最後に、日本に関して、好きなことと好きでないことを教えていただけますか。

街での暮らしも電車も、コンビニも、食事も、とにかく生活が便利であることが好きな点です。顧客サービスの品質の良さも米国とは比較になりません。また日本人はコミュニティとかチームとか、集団で仕事をすることで力を発揮することを得意としているのが素晴らしいと思っています。

一方、日本に来ていまだに慣れないのは、凄くハイコンテクストな文化で、コミュニケーションが直接的ではないというところ、またやや柔軟性に欠けるというところでしょうか。新たな地に来て挑戦していますので、当然、課題はありますが、語学も少しずつ上達し、仲間も増えてきています。規制環境、スタートアップを支援する仕組みも含め、間違いなく環境は良くなってきていますので、楽しみながら事業に取り組んでいきたいです。

(終わり)


【参考】

参考1: Dronext
https://dronextglobal.com/?lang=ja

参考2: Brain Pool Tech
https://www.brainpooltech.com/

参考3: DIPS
https://www.dips.mlit.go.jp/portal/

参考4: DJI
https://www.dji.com/jp

参考5: The Drone Racing League
https://thedroneracingleague.com/

参考6: Airspeeder
https://airspeeder.com/

 


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記事執筆日: 2021年2月12日

執筆責任: GreenTech Labs