エネルギーハーベスティングの可能性に魅せられた発明家が描く脱炭素への道

エネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第25回
エネルギーハーベスティングの可能性に魅せられた発明家が描く脱炭素への道

今回のゲストは、身の回りで活用されずに捨てられているエネルギーを刈り取るエネルギーハーベスティングを軸に、次々と新たな発電技術を開発し、「発電床」、「振力電池」等のユニークな製品を世の中に届けてきた音力発電の速水さんです。次々と新たな発電技術を開発し、社会実装まで繋げる独創的な手法や、脱炭素社会に向けた切り札となり得る「循環型波力揚水発電」の開発状況など、魅力的なお話をたくさん聞かせていただきました。

本日のゲスト:速水 浩平さん@株式会社音力発電

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<略歴>
慶応義塾大学環境情報学部卒業。大学在学中の2003年より音力・振動力発電の研究開発に取組み、同大学大学院政策・メディア研究科に進学後、2006年に株式会社音力発電を設立。人や車の移動時に発生する振動エネルギーによって発電する「発電床R」をはじめ、生活の中にある利用されていないエネルギーを有効活用した独自の製品開発を行う。

--まずは御社の事業について、簡単に教えていただけますか。

私は音力発電という会社を経営しています。オフィスは東京と藤沢の2拠点で15-16名程度の体制ですが、技術開発、製品開発は藤沢を中心に進めています。

世の中には、人が歩くときに床に起こす振動や、車が走るときの音など、日常生活で意識されることがないまま、無駄に捨てられているエネルギーがたくさんあります。本来振動って喜ばれるものではなく、サスペンションを入れて抑制しようとするものですよね。このようなむしろ迷惑に思われている負のエネルギーを刈り取って、発電した電力を有効に使うことができれば、社会にとって大きなプラスになり、新しいライフスタイルの実現に繋がっていくのではないか。こうした当社の製品開発のコンセプトを端的に表しているのが「エネルギーハーベスティング」という言葉です。音や振動、風力、太陽光、温度差、波の力まで身のまわりで捨てられているエネルギーを刈り取ろうという理念のもと、多様な発電技術の研究・開発から、製品の製造・販売までを手掛けています。

具体的には、歩くだけでLEDのフットライトを発光させる「発電床R」や、ボタンを押すたびに発電し、無線送信することができる「電池レスリモコン」を可能にする「振力電池R」という小型なものから、最近は、無尽蔵にある波の力で発電を行う「循環型波力揚水発電」にも取り組んでいます。

--大学在学中に起業した当時と現在で、変化として感じていることはございますか?

私は、高校2年生の時には大学発ベンチャーをやろうと決めていましたので、ベンチャー支援を受けられる大学を求めて、慶応義塾大学に入学することにしました。当時は、慶應義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)が日本で初めて、大学発ベンチャーを支援するプログラムを立ち上げたのです。

大学時代には、人の声をはじめ音や振動のエネルギーを利用した発電技術を研究する傍ら、ビジネスプランも組み立てていまして、発電床という製品を世の中に投入すると面白いのでは?と考えるようになり、そのまま在学中に起業しました。

起業してからしばらくすると、欧州で「エネルギーハーベスティング」という言葉が出てきていることを知ったのですが、そのコンセプトはまさに私が描いているものと同じでした。当初は、音と振動だけをやっていましたが、その後、温度差発電、無線発電、室内で太陽光発電など、エネルギーハーベスティング全体的にやってみようと、少しずつ対象技術も増やしてきました。

おかげさまで、振動力発電を活用する電池レスIoTセンサーに代表される小規模な電力を扱うエネルギーハーベスティングは、ある程度、技術として確立されたと言えるレベルに到達しています。そこで次のステップとして、3~4年ほど前から、循環型の波力発電に取り組み始めています。エネルギーハーベスティングというと微小な電力という発想をされる方が多いかもしれませんが、大切なのは活用できずに捨てられているエネルギーを有効利用することであり、発電電力の大小は関係ないというのが弊社の考え方です。

--高校の頃に大学発ベンチャーをやろうと決意する、というのは珍しかったのではないでしょうか。

私は、幼い頃から好奇心旺盛で発明が大好きな少年だったのです。子供の頃って大きくなったら何になりたいか?と聞かれて、将来の夢を語るじゃないですか。高校2年生くらいまでは、起業という選択肢があることを知らなくて、ただ研究者になりたいと思っていたのです。ただ、よくよく自分の性格を考えると、興味もないテーマを人から無理やり与えられてやるのは嫌ですし、人の真似をするのも嫌なんですよね。自分のオリジナルのものを作って、社会の役に立てたいという強い拘りがありました。

高校2年生の時に、シリコンバレーでは大学発ベンチャーというのが流行っているということを知りまして、日本でも大学発ベンチャーを支援すべきだという声が上がり始めていました。これだ、と思いましたね。自ら起業すれば、自分が好きなことだけをやれるじゃないですか(笑)。

起業した当時、日本でももっとベンチャー企業が普及した方が良いという声を挙げる人はいましたが、今とはだいぶ違いましたね。ベンチャー企業に対して、世間から持たれる印象としては、応援してくれる声が半分、ベンチャーなんて海のものとも山のものとも分からない、いい加減でチャラチャラしているなど、ネガティブな声が半分といった感じでしたね。最近は、ベンチャー企業に対する社会の受容性は、当時とは比較にならないほど良くなってきていると感じます。

--これまで開発されてきたエネルギーハーベスティング技術の中で、今後拡大していくポテンシャルを感じているユースケースを教えて頂けないでしょうか。

電池レスのIoT電源として利用は伸びていくと思います。ボタンとかスイッチに実装してビーコンを飛ばすことができますので、例えば、椅子に内蔵し、電池レスの着座センサーとして利用することが可能です。最近は、飲食店は新型コロナウイルスで大変な状況にありますが、お店の混み具合を把握するための手段として活用できると考えています。

また靴の中に入れるという使い方も可能性を感じています。例えば、介護靴の中に入れておくことで、介護施設の中で要介護者の居場所を把握することができます。日本も高齢化社会の進展が待ったなしの状況ですが、例えば、認知症の高齢者が外出してしまうといった問題に対しても、靴に仕込んでおくことで外出するとアラートが鳴るような仕組みを構築することが可能です。自動販売機でビーコンを拾えるようにしておき、自動販売機の前を通過したことを検知する仕組みの試験導入も始めています。

弊社が提供する電池レスIoTセンサー部分の価格帯ですが、今はまだ数が出ておりませんので8,000円/個程度を考えています。最終的には、量産で500円/個くらいでしょうか。「乾電池3つ分くらいでやれる価格」を目指そうと社内ではよく話しています。なお、弊社は電池IoTセンサーをエンドユーザーへ直接販売することはなく、システムとして販売する他社サービスに組み込まれる形を想定していますので、最終的なIoTセンサーサービスの仕上がり価格は何とも言えません。

--技術開発の範囲がかなり幅広いと思いますが、新たな技術の開発に着手するかどうか判断する際の基準はどのように設定されているのでしょうか。

弊社の技術開発は「①自社開発」と「②お客さまからの受託開発」の2パターンがあります。

「自社開発」は、例えばNEDO様が、こんな技術を募集しています、と公表されているのを見たり、経済紙を読んだりする中で、将来こういう技術が求められるのではないか?というのを見極め、最先端の技術を自ら開発するものです。

一方、「お客様からの受託開発」では、お客さまから依頼をいただき、受託開発を行います。弊社固有の独特なやり方かもしれませんが、受託開発では、これまで当社が独自に作り上げてきた発明リストというものを参照しつつ、お客さまと対話を重ねながら、なにをやるかというのを見極めています。過去のお客様とのやり取りを通じて、この技術は市場がありそうで、この技術は厳しい、といった見立てを得てきており、それが反映されているのがこの発明リストです。全体で300項目、確度の高いもので80項目ほどの候補技術が並んでいます。例えば、「振動」というのは車や工場など、幅広い業種の現場で発生しますので、多様な業種の方とお話する機会を得られるのですが、色んなお客様と対話を重ねていると、どういった技術が求められているのか?というのもだんだん見えるようになってきます。

なお、受託開発する際には、この技術はどの程度の市場があるのか?というのは当然考えますが、世の中的にはニッチなニーズであっても、それでもやりたいというお客さまがいれば、お受けするようにしています。ニッチだからどうこういうよりも、弊社の中で基準として大切にしているのは、新規クライアントの数を1年間に5件に絞るということです。十分な品質を保つためには、新規のお客さまは年間5件が上手くいくというのは、過去の事業を通じて得られた経験則です。

--開発体制はどのように構築されているのでしょうか?また、受託開発を進めるにあたり、注意している点はございますか?

開発体制ですが、弊社が単独でやる時もありますし、提携会社と一部協力することもあります。例えば、床材の開発をする際には、弊社は発電床を作ることはできますが、フローリングは分かりませんので、フローリングを作る他企業と共同体制を組んだりしますね。また製品を量産する場合には、工場に入ってもらうことになりますが、5~6社の提携先工場があります。

受託開発は、お客さまから費用を頂いて開発するのが基本です。お客さま専用の金型を作りますので、当該お客さまだけに向けられた開発ということになりますが、必ず弊社の保有する特許技術をコア技術として使いますので、弊社が保有する特許部分については、弊社が権利を保有しているところは変わりません。応用部分で新たに特許を取れる場合に、お客さまと費用も折半、権利も半々で開発を行うこともあります。

受託開発を進めるに際して、会社の大切なルールとして守っていることは、最新技術でなく、3世代前の技術を使おうということです。3世代前とは、もちろん弊社の中での話であって、世の中的には最新技術ですけどね。特許を取るにはそれなりに時間がかかりますので、世の中に出て模倣されることを防ぐためです。技術開発ベンチャーですので、技術的な優位性を保つという点には常に拘っています。

--「自社開発」で開発した技術としては、どのようなものがございますか?

先ほどもお話しましたが、日々、こんな技術が出来ると良いのでは?といった議論をしており、「①自社開発」の対象は、世の中の動向を見ながら自発的に決めています。例えば、現在取り組んでいる「循環型波力揚水発電」も「自社開発」に含まれます。NEDO様が出力変動の激しい再エネのしわ取り問題、大型蓄電池等を取り上げるようになり、安定出力の再生可能エネルギーが求められているのではないか?と考えるようになりました。波のエネルギーは24時間365日尽きることがありませんので、波力でポンプアップする揚水発電に着眼しました。無限のエネルギーでポンプアップしたプールの水を使って、必要な時に必要なだけ水力発電で供給することが可能となります。

波力発電の技術開発は、この技術を実用化するとどの程度のコストでやれるのか?という見通しが得られていない中での出発でした。プロジェクトを進めていく中で、徐々にコスト感も見えてくるようになりましたし、設置場所も沖合だと海底ケーブルの敷設に苦労するため、陸に近いところが良いのではないか?など、商用設備の導入イメージもクリアになってきました。当面のコスト目標は15円/kWh程度ですが、将来的には8~9円/kWhくらいで提供していきたいと考えています。

--御社の「循環型波力揚水発電」は、具体的にはどういう技術なのでしょうか?

弊社が開発中の波力発電機は、波の動きによって発電装置の浮きが海面で上下し、密閉された容器内の循環水を上部プールに押し上げる仕組みです。上部プールに貯めた水を落下させてタービンを回して発電します。装置内で水が循環する波力発電機は過去に例がなく、実用化すれば世界発の技術となります。大きさは、現在開発しているもので、縦20m×横30m×高さ30mの台形型で最大出力は330kWです。将来的には、同技術を使って大型化も可能であると考えています。

波力発電自体の歴史は長いですが「高波による破損」、「フジツボなどの海洋生物の付着による故障」、「漁業組合との設置場所の調整に難航」という問題に悩まされてきました。こうした問題を解決するため、台形の形状で高波を真正面から受けない設計、発電装置内部の循環水に海水を使わないことで海洋生物の付着を防ぐ仕組みを開発しました。また航路や漁場を塞がない場所に設置可能な設計とすることで、設置場所の調整もしやすくなりました。実際に、沖縄、島根、福島など、前向きに興味を示してくれる地域も少しずつ見つかってきています。最近は使われない漁港も増えてきていますので、そういう場所を使わせていただくのも一案です。

--商用導入するためには収益モデルの検討も必要です。新たな発電技術であり、FITをはじめ制度面での扱いが明確化されていないのではないかと思いますが、どう対処されていますか?

商用導入後の収益モデルの制度上の扱いを検討するのはまだこれからですね。弊社の波力発電機は、水力発電には違いありませんので、FIT適用に関しては水力発電の枠で申請していますが、まだ回答は得られていません。

すぐに適用可能な電力販売のモデルとして、港の近隣施設の需要家と自家消費の相対契約を考えています。特に、離島などの限界集落のような地域では、高額なディーゼル発電よりも波力発電による自家消費の方が、クリーンなだけでなく、経済合理性も優れていると言える地域が増えてくるでしょう。海外でも、同様な地域は多いですよね。まずは東南アジアかなと思っていますが、フィジーでもモルディブでも、波力発電は海さえあれば使えます。

順調にいけば、最短で2022年の夏頃に沖縄の久米島で実証実験を開始できる予定です。330kW出力で1年間程度、技術実証を行い、1年後の2023年からまずは自家消費用途で商用運転を開始する計画です。久米島の自治体や漁協とも昨年から話を始めさせていただいております。技術実証の中でトラブルを出し切ってしまいたいですね。久米島は台風も来ますので、こうした実証の場として最適です。

なお、波力発電機の耐用年数は最低でも20年、理想的には30年程度を考えています。肝心の船の部分は、造船大手の常石造船さんにお願いしており、100年に一度の台風が来ても壊れないように作ってもらっています。

--2050年までにカーボンニュートラル達成に向けて、御社の技術はどのように貢献できますか。

最近、弊社の「循環型波力揚水発電」への問い合わせは増えてきていますね。2050年のカーボンニュートラル達成に向けた電力の脱炭素化を果たして太陽光とか風力だけで実現できるのか、という点に疑問を感じている人はいるようです。政府の洋上風力産業ビジョンが発表されましたが、洋上風力だけで2040年までに30GW~45GWという規模を開発できると良いですが、洋上風力の適地があれだけの規模見込めるのかは慎重に分析する必要がありますし、昨年末には600億円かけて作った福島県沖の浮体式洋上風力発電設備を、採算性が見込めないという理由で、全て撤去することが決まりました。洋上風力一辺倒ではなく、他の発電技術も検討すべきではないかと考え、弊社の波力発電技術に興味を持たれる人も増えてきています。

--日本のエネルギー業界の法制度、規制、業界の慣習など、事業を展開するうえで課題に感じていることはございますか?

波力発電設備は、港に設置することになりますが、港への設置許可は、地区町村が管理する場所もあれば、国や県が管理する場所もあります。防波堤等の設置許可の必要手続きが明確に決まっていないケースも珍しくありません。新しいことに前向きに取り組んでくれる役所であれば、ルールがないのだから自由に調整していけば良いというポジティブな捉え方ができますが、やはり保守的に構える役所もいます。将来的には他の発電技術も出てくると思いますし、最初は特区みたいな形でも良いので、港湾への発電設備の設置手続きの整備が進むことを願っています。

--一層のイノベーションが求められる中、日本のエネルギー業界は自ら起業に挑戦する人が少ないと言われています。こうした状況を変えていくには何が必要でしょうか?

確かに、印象としては、エネルギー業界でベンチャー企業に挑戦するのは敷居が高いというのはあるのでしょう。ただ、新型コロナウイルスの影響で自粛が進み、産業によってはかなり大変な状況に陥っている中でも、エネルギーは関係なく使われていますし、今後も間違いなく必要とされますよね。むしろ2050年のカーボンニュートラル達成に向けて重要性は一層高まり、国もこの分野において、過去に例がないレベルで、起業家、ならびにイノベーションを積極的に求めている状況です。エネルギー業界に関しては産業そのものが衰退するリスクはないという見方もできます。

昔は、小さい電力会社が沢山あり、切磋琢磨して業界が活性化されてきたと理解しています。業界を活性化していくためにはベンチャー企業の力が必要だと思っています。誰もがやるべきとは思いませんが、覚悟のある人には、ぜひ挑戦してもらいたいですね。

【参考】

株式会社音力発電 https://www.soundpower.co.jp/
循環型波力揚水発電 https://www.soundpower.co.jp/work/wave.html

【取材後記】

ベンチャーマインドとはまさにこういう方を指して使われるのだなと強く実感したインタビューでした。商材も開発スタイルもビジネスモデルも全て自ら立ち上げてこられたオリジナル。一つの技術でも社会実装まで繋げるのは至難の業というのが常識である中、独特の感性と嗅覚で次々と新たな発電技術を開発し、世の中に送り届けてきました。その手腕から学ばせてもらえることが沢山あるのではないかと思う一方、人に決められた仕事をやるのは嫌で、自分のオリジナルで社会の役に立てたいという心の声に正直に生きてきた速水さんだからこそ、辿り着いた領域なのだろうとも感じます。

「循環型波力揚水発電」は、日本のみならず、世界中にマーケットが確実に存在していると考えており、久米島での実証を終えて、商用リリースのニュースを見る日が今から楽しみでなりません。

(終わり)


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記事執筆日: 2021年3月12日

執筆責任: GreenTech Labs