エネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第7回
直感を信じて進んだキャリア ~エネルギー業界の変化と、再エネに見出す可能性~
今回は、石油会社から一転、エネルギー業界の変化と電力事業の可能性を見出し、電力業界へ転身した方のインタビューをお届けします。電力業界を志した背景や、現在取り組まれている再エネ関係の新規事業について、幅広くお話を伺いました。一般公開記事です。
インタビューハイライト 「今回の金言」
- エネルギー業界の変化は2000年代後半から何となく感じていたが、特に東日本大震災を契機に、今までエネルギー業界をけん引してきた大きいプレイヤーが変化していくタイミングと、世の中が変化するタイミングにズレが生じるような感じがした。また、きっとそのズレの隙間を埋めるのが再エネなのではないかという直感があった。
- 新しい事業を開発する上では、答えはお客様しか持っていないので、独りよがりに考えているだけではだめ。お客様との対話こそが重要。
- エネルギー業界全体が盛り上がっていかないと議論も活性化していかないので、所属する組織とか、組織を背負ったポジショントークとか、そういうのは関係なく、個々人が自分の想いを素直に語れる場が必要。
本日のゲスト:伊藤 走馬(いとう そうま)さん @afterFIT
石油会社でキャリアをスタート、その後エネルギーの未来は再エネにあると感じ、電力事業へ転身。コンサルティング会社、新電力、蓄電池メーカーを経て、現在は再エネ開発事業者で小売関連の新規事業開発を担当。
―― これまでのご経歴について教えてください。
2007年に新日本石油株式会社(現:ENEOS株式会社)に入社し、配管エンジニアとしてプラントの改造に携わっていました。入社後4年半程ずっと岡山県倉敷市の水島製油所に勤務していましたが、水島以外の職場も経験してみたいと上司に言い続けていたところ、韓国企業と共同で蔚山にパラキシレン製造工場を建設するプロジェクトにアサインされることになり、2年半ほど現地へ派遣されることになります。韓国の現場は、それ自体は楽しく充実したものだったのですが、大企業特有の組織の論理が働く中で「自分の考えを持っても仕方ない」という無力感が日増しに強くなってきており、帰国して本社に戻るときには既に退職する意思を固めていました。
エネルギーには一貫して興味があり、大学時代も マイクログリッド や スマートグリッド といったことには関心があったのですが、専攻は機械系だったこともあり当時電力に関する知識はあまりなかったので、次に取り組むのであれば電力がいいかなー、と考えていました。2社目の株式会社インダストリアル・ディシジョンズでは、電力事業を中心としたエネルギー関係のお客様に対してコンサルティングサービスを提供しており、慣れないコンサル業に1年ほど従事していました。その後、株式会社F-Powerという独立系大手新電力に出向し、そこで約2年間、需給管理(※1)の業務に携わりました。そこでは、電力事業の基本的な流れはもちろんのこと、業務を通じて新電力ビジネスの構造をよく理解できるようになりました。F-Powerは新電力の中でも電力卸取引市場を積極的に活用することで有名なのですが、小売事業を通じて電力事業への理解を深めていくにつれて、自分自身は市場での取引よりも、太陽光+蓄電池の組み合わせによる再エネの普及に関心があるのではないか、と考え、F-Powerを離れることにしました。
その後、株式会社スリーダムという蓄電池メーカーの企画職に転職します。同社の考えているビジョン・製品はとても魅力的ではあったのですが、自分の担当していた企画の仕事はあまりにも先の将来を見過ぎているように感じ、仕事に手触り感がどうしても感じられず、残念ながら同社を数か月で離れることになります。
そして、2019年3月、現在所属している株式会社afterFITに転職します。現在は、小売関連の新事業開発を担当しており、プロジェクトを統括する立場にいるのですが、ビジネスモデルを考える理論の部分と、それを実現する実務の部分と、両者のバランスがとてもよく、手触り感を持って仕事に取り組めていると感じています。
1社目に入社し石油業界にいた時代から、エネルギーの在り方が変わっていくのを感じていましたし、その変化に寄与したいと思っていました。特に、東日本大震災を契機に、今までエネルギー業界をけん引してきた大きいプレイヤーが変化していくタイミングと、世の中が変化するタイミングにズレが生じるような感じがし、きっとそのズレの隙間を埋めるのが再エネなのではないかと感じました。再エネ普及は無視できないファクターになるのではないか、と何となく直感が働いたんです。その直感を信じながら、自分の興味の赴くままに今までキャリアを積み重ねてきています。
―― 現職では具体的にはどのような新規事業を開発されているのでしょうか?
ソーラーカーポートという、駐車場の屋根として太陽光パネルを活用することで、既存の土地を活用しながら太陽光由来の電気を供給するサービス開発しています。工場や商業施設のお客様向けに提案しているのですが、今のところお客様の反応も上々です。事業検討当初は電気料金の削減効果を訴求して拡販していこうと考えていたのですが、実際にお客様と対話をしてみると駐車場に屋根が付くことが意外にも喜ばれ、多少電気料金が上がったとしても導入にメリットを感じてくださるということが分かった点が、非常に大きな発見でした。一方で、「再エネ由来の電力を活用する」という環境価値も訴求できるのではないか、という仮説はあったのですが、そこに重きを置いている需要家はまだ少ない、という印象も受けています。答えはお客様しか持っていないので、独りよがりに考えているだけではだめで、お客様との対話が非常に重要であると感じています。
ソーラーカーポートは技術的には結構難しい点が多く、どのように発電量を上げるか、どのようにコストを下げるか、という点に腐心しながらプロジェクトを進めています。
―― afterFITでは、元々手掛けられていた太陽光発電事業の他にも、伊藤さんが手掛けられているような新しい小売モデルの開発であったり、EnergyShift(参考1)といったメディア事業もやられていたり、非常に事業の幅が広い印象がありますが、どういった軸で事業を展開されているのでしょうか?
発電量をいかに増やすか、コストをいかに下げるか、そういった小さな努力の積み重ねで再エネ事業はまだまだ改善の余地があるはずなのですが、そこを真剣に突き詰めている事業者が比較的少ないのではないかと思っています。当社では、「やるべきことをきちんとやる」という努力を誠実に積み重ねていればいつか道が開ける、という思いを軸に、再生可能エネルギーの拡大に資する事業に取り組んでいっていると思っています。EnergyShiftのサービスについても、それ単体での事業化を目指しているというよりは、多くの方に知っていただくこと会社としての信用が得られるのではないか、という考えから、エネルギー業界に関心のある方とより広く接点を持つために始めたと思っています。
―― afterFITの組織マネジメントについて、新しい働き方も積極的に取り入れていると聞きますが、詳しく教えて頂けますか?
フラットな組織を目指しており、いわゆる「ティール型」の組織(※2)を採用しています。社員は、基本的には所属もなし、役職もなし、です。配属先がないというのは、自分の居場所が確保されている訳ではないため、入社当初は戸惑いもありました。実際に、その人が最もパフォーマンスを上げられる場所を見つけるまでは大変なところもありますが、きちんと各人がパフォーマンスを発揮できるよう支援する仕組み(参考2: スクザップという制度)も整備されています。
また、入社時にストレングスファインダー(※3)を全社員が受ける点も、当社独特な面白い制度だと思います。実際に一緒に仕事をしてみるとストレングスファインダーの結果と合致していることが多いので、チームメンバーの強みを理解しながら適切な業務分担を行ったり、コミュニケーションの方法を工夫するのにストレングスファインダーの結果がとても役に立っています。
―― 伊藤さん個人は、電力業界に於いて今後どういったことに取り組んでいきたいと考えていますか?
一つは、送配電網をもっと効率的に運用出来るんじゃないかな?という思いがあります。丁度、最近、配電のライセンス制の議論もされ始めているので、まずは小さい配電網単位で、蓄電池を活用しながら再エネを最大限導入し、そこに EMS を組み合わせて需要側も最適運用する等、そういうことが出来ないかな、と考えています。
もう一つは、電力の 限界費用 が0円になっていく中で、今後は電気そのものを売る商売ではなく、電気をいかにうまく使って付加価値を高めていくか?というのが重要になるのではないかと考えています。例えば、不動産の活用であったり、社会システムであったり、電気を活用することに知恵を絞る必要があるのではないかと感じています。
いまは現在取り組んでいる事業に集中していますが、いま挙げたようなことを常にぼんやりと意識しながら今後の事業の構想を膨らませたいと思っています。
―― 最後に、本インタビュー前からGreenTech Labsイベントにご参加くださっていたと伺っておりますが、今後GreenTech Labsの活動に期待することは何かありますか?
電力事業に携わっている色んな立場の方と、本音で話が出来る場所があったらいいな、と思っています。旧一般電気事業者を除けばそんなに大きな業界ではなく、業界全体が盛り上がっていかないと議論も活性化していかないと思っているので、所属する組織とか、組織を背負ったポジショントークとか、そういうのは関係なく、個々人が自分の想いを素直に語れる場があるといいな、とずっと考えていました。GreenTech Labsにはぜひそんな場であって欲しいと思っています。
(終わり)
【参考情報ならび注釈】
参考1 EnergyShift:
エネルギーシフトを加速させるビジネスメディア。株式会社afterFIT運営。
https://energy-shift.com/
※1 需給管理:
小売電気事業者の業務の一つで、需要想定、最適な調達方法の検討、市場入札などを含む供給力の確保、電力広域的運営推進機関へ提出する需要計画・調達計画の策定・提出、当日の需給状態の監視及び提出した計画値の修正、等を行う業務。
※2 ティール組織:
フレデリック・ラルーの著書「Reinventing Organizations」(邦題:「ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」)で提唱された組織の在り方の一つで、目的に沿って組織に属するメンバーが個々に判断・意思決定を行う自律的な組織を指す。
※3 ストレングスファインダー:
米国Gallup社の開発した才能診断ツールで、177問の質問に答えることで、34に分類された資質の内、どの資質を強みとして有しているか明らかにするテスト。クリフトンストレングスという名前でリブランディングされている。
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記事執筆日: 2020年6月24日
執筆責任: GreenTech Labs