オープンイノベーション成功の秘訣


エネルギー&環境領域で活躍する人と知見を繋ぐインタビュー:第19回
オープンイノベーション成功の秘訣

今回は、グローバルベンチャーキャピタル・アクセラレーターであるPlug and Play JapanでCOOとしてご活躍されている内木さんに、日本におけるオープンイノベーションの成功の秘訣についてお話を伺いました。特に日本の大企業におけるオープンイノベーション推進の難しさについて、それらを打破する具体的なアイディアについてもアドバイス頂いています。自らのキャリアを自分の力で切り拓き、やりがいを持って働くことの出来る仕事に辿り着いたお話も魅力的です。


※記事末尾に内木さんからの イベントご案内 があります。ぜひご覧ください。


インタビューハイライト 「今回の金言」

  • オープンイノベーション成功のために一番重要な要素は経営層のコミットだと思います。予算も人も投入して、「頑張りなさい」と裁量を持たせて、とにかく自由にやらせる、というのがオープンイノベーションの実現においては非常に重要です。日本の大企業の多くはR&Dに莫大なお金を投じていますが、それも成功するものもあれば失敗するものもあるので、その予算の一部でも同様にオープンイノベーションを目的としたスタートアップ投資に回しても良いのでは?と感じています。
  • オープンイノベーションの取り組みは社内での反発が大きい場合が多く、一方で情熱を持つ担当者本人は現状に対して問題意識を持っている方なので、転職という選択肢が選ばれる可能性の高い構造にもあります。そんな中でも「情熱を持ちながらも会社のために頑張り続けられる人」というのは非常に稀有な存在なので、会社はそういう人材を大事にすべきだと思います。
  • シリコンバレーでスタートアップに取り組む起業家はみな、成し遂げたいビジョンを明確に持っており、また魅力的なビジョンにはお金が付く環境が整っているため、新しい事業が生まれ・良い事業が育っていく好循環がシリコンバレーにはあり、「スタートアップから生まれた事業が世界を変えられる」と本気で感じました。

本日のゲスト:内木 遼(ないき りょう)さん @ Plug and Play Japan

電力会社、商社を経て、アメリカのビジネススクールに自費留学。シリコンバレーでのオープンイノベーション支援業務を通じて、スタートアップから生まれた事業が社会を変えるインパクトを与え得る可能性を強く感じる。Plug and Play Japanに立ち上げメンバーとして参画し、現在は日本でのオープンイノベーション促進に尽力。

―― これまでのご経歴について教えてください。

大学時代は街づくりのゼミに所属していたこともあり、元々インフラの構築や都市開発に興味があったので、2006年に新卒で東京電力に入社しました。東京電力では、お客さまの漏電・停電などのトラブルに対応する仕事や、資材調達に従事したりしていたのですが、いつかは海外事業に携わりたいと考え、海外留学制度に応募しました。選考も順調に通過しほぼ派遣が確定しようとしていたのですが、そのタイミングで東日本大震災が発生し海外留学どころではなくなってしまい、夢に終わってしまったのですが…。

ただ、やはり個人的には海外事業への想いを諦めきることが出来なかったため、2012年に豊田通商へ転職します。豊田通商では空港・港湾・ FPSO への投資等、やはりインフラ産業に携わっていたのですが、重厚長大なインフラ産業はどうしても長期スパンで物事を見る必要あり、もう少し短期で世の中にインパクトを与えられるような仕事をしてみたい、という気持ちもわいてきて、自分のキャリアを大きく変えるためにも自費で留学することに決め、2014年にアメリカのコロンビア大学のビジネススクールに入学しました。

MBAでは1年目はいわゆる古典的なM&Aの理論を学び、投資銀行のインターンで実践を通じて身に付ける機会も得ました。2年目は、起業家育成を狙いとした実践的なコースに移り、その一環としてシリコンバレーで日本企業のオープンイノベーションを支援するデロイト トーマツ ベンチャーサポートでインターンとして参加したのですが、それが一つ自分にとって大きな転機になったと思っています。というのも、シリコンバレーでスタートアップに取り組む起業家はみな、成し遂げたいビジョンを明確に持っており、また魅力的なビジョンにはお金が付く環境が整っているため、新しい事業が生まれ・良い事業が育っていく好循環がシリコンバレーにはあり、「スタートアップから生まれた事業が世界を変えられる」と本気で感じました。実は、シリコンバレーに移る前に自分自身もニューヨークで事業を立ち上げていたのですが、シリコンバレーで日々生まれているビジネスは自分の考えていたものと全く次元が違っており、金槌で頭を殴られたような衝撃を受けたのを覚えています。そんな訳で、「社会にインパクトを与えられるような仕事をしたい」という自分の想いに合致した、オープンイノベーション支援の仕事にやりがいを感じ、そのままデロイト トーマツ ベンチャーサポートで約1年半、仕事をさせて頂きました。

その後、Plug and Play Japanの立ち上げのポジションに募集があったのを見つけ、魅力を感じて2017年に参画し、現在に至ります。立ち上げメンバーとして参画したので、戦略策定から営業、採用、人事など、とにかく何でもやり、現在はCOOとしてオペレーション全体を見ています。

―― 現職のPlug and Play Japanではどのようなことに取り組まれているのでしょうか?

Plug and Playは、「世界中の起業家、企業、投資家を結びつけることでイノベーションを推進する。(“To drive innovation by connecting entrepreneurs, corporations, and investors worldwide.”)」というミッションの下、世界30拠点以上で事業を展開しているグローバルベンチャーキャピタル・アクセラレーターです。当社の投資実績で皆さんよくご存知のところではDropboxやPayPalなどがあります。

Plug and Play Japanとしてのミッションは、大企業とスタートアップを繋げることによってイノベーションを創出することだと考えています。日本の場合、大企業とのタイアップによる成功事例を一つ作ることで、その成功事例が横に広がっていくはずだと考えているので、特に大企業を巻き込んだイノベーションの創出が非常に重要であると考えています。そのため、大企業のオープンイノベーションを促進するためにも、アクセラレータープログラムにご参加頂いている企業様を対象に、社内でのオープンイノベーションに対するリテラシーを高める活動の支援も行っています。最終的には当社がいなくても自社でスタートアップを活用したイノベーションを創出できるようになるのが一番だと思っているため、そこを目指して活動しています。

また、海外のスタートアップは言語と文化の壁が高いことを背景に日本に進出する企業が少ないため、当社が日本で事業を展開することで、そこを起点に海外スタートアップの日本進出を促し、日本企業と海外のスタートアップとを繋げる役割を担えたらと考えています。

―― 「イノベーションに対するリテラシーを高める活動」を支援されているとのことですが、具体的にはどのような取り組みか教えて頂けますか?

組織を大きく①経営層、②事業部責任者、③担当者、④風土の4つに分けて、それぞれに対してアプローチするのですが、例えば①経営層であれば、イノベーションの重要性について外部環境や当社事例なども交えながら訴え、理解を深めていただくことをします。当社の複数の顧客企業のイノベーション担当役員が集まる情報交換会を通じて、互いに学び、刺激を与え合っていただくという取組みも行っています。②事業部責任者に対しては実際に事業部で抱えている課題に対してオープンイノベーションを活用した具体的な解決策を提案したり、③担当者に対しては「スタートアップ・スクール」という形で、スタートアップとは何か?という解説から、スタートアップとNDAを結ぶ際のポイント、PoCを実施する際の留意点、等、より実務に則した情報提供を行います。④風土は、社内でのイノベーションに対する理解度向上を目指し、幅広い層に向けたオープンイノベーションの取り組み紹介や意見交換を行う場を企画したりすることもあります。それぞれの層に適切にアプローチし、会社全体としてイノベーションに対する理解を深めることで、担当者がスタートアップとの協業・イノベーションの推進に取り組みやすい土壌を形成することを支援しています。

―― 海外に比べると日本のスタートアップはまだまだ層が薄く、特にエネルギー系のスタートアップは少ない印象がありますが、その辺りはどのようにご覧になっていますか?

終身雇用を始めとする雇用制度の観点から、従来は大企業で勤める方が圧倒的にリスクが低く、自ら起業するリスクはそのリターンに見合っていない傾向にあったため、全体としてはどうしても大企業を目指す人が多くスタートアップを目指す層が薄かった、ということはあると思います。ただ、最近ではスタートアップへ回る資金や支援制度が充実してきており、また日本のマーケットがシュリンクすることに危機感を感じている大企業が新規事業創出を目的にスタートアップへの出資をする事例も増えてきているので、事業環境が充実してきており、徐々にスタートアップを志す人が増えてきていると感じています。商社で海外事業を経験した方が起業する事例なども増えてきていますよね。経済産業省がスタートアップ育成支援のための「J-Startup」と言う仕組みを立ち上げたりと、行政側もスタートアップ支援に積極的になってきているのも感じます。

―― 大企業側のオープンイノベーションに関する取り組みについても伺いたいのですが、スタートアップとの協働によるオープンイノベーションに成功している企業の成功要因はどこにあると思いますか?

一番重要な要素は経営層のコミットだと思います。予算も人も投入して、「頑張りなさい」と裁量を持たせて、とにかく自由にやらせる、というのがオープンイノベーションの実現においては非常に重要です。当初、担当役員に理解があったとしても、人事異動によって担当役員が変わってしまうことでオープンイノベーションの取り組みを中断せざるを得なくなる、という例も多くあるのが現実で、これは非常に残念です。日本の大企業の多くはR&Dに莫大なお金を投じていますが、それも成功するものもあれば失敗するものもあるので、その予算の一部でも同様にオープンイノベーションを目的としたスタートアップ投資に回しても良いのでは?と感じています。

加えて、オープンイノベーションを担当する担当者の人選も非常に大事です。取り組みの初期フェーズでは突破力のある人が必要かもしれませんが、一度取り組みがスタートして以降は実務能力が必要だったり、社内で話を通していく力が重要になってくるので、例えば海外スタートアップとのやり取りは社外の専門家をうまく活用しながら、その人と本社の人間を繋ぐ立場に社内調整の上手な方を配置する等、適材適所を意識することが大事だと思います。

日本企業でオープンイノベーションがうまくいっている事例としては、協業の検討開始、PoC取り組み中、事業化検討中、等、スタートアップとの取り組み状況をステータス毎に見える化し、担当者だけでなく経営層まで状況を把握できるようにすることで、オープンイノベーションを加速させている例などがあります。また、経営層がイノベーションの必要性を十分に理解し、予算や意思決定権限を委譲することで、担当者が機動的に動くことが出来、結果として良い結果をもたらしている事例などもあります。

また、漠然とオープンイノベーションに取り組もうとしてもなかなかうまくいかないので、目的を明確に持ってスタートアップにアプローチすることも重要だと思います。海外でイノベーションに成功している企業の多くは、技術ロードマップをひいて、必要技術の内自社で有していないmissing pieceを炙り出し、それをスタートアップへの投資・協業で埋めにいく、というアプローチを取っています。このように経営戦略的観点からイノベーションが定義されると、役員が変わってもブレづらいというメリットがあると思います。海外企業の場合、自社で持っておくべき技術と他社との協業で埋めるべき技術の仕分けが明確化出来ている点も、スタートアップとの協業を進めやすい背景としてあると思います。

―― スタートアップとの協業を仕掛けようとすると、社内の専門家に否定されることが多く、専門知識を有していない担当者としてはそれ以上話を進めることが難しい、という構造に陥ってしまいがちなのですが…。

スタートアップと面談する際に社内専門家にも同席してもらう、熱量を大事にする、等が主な克服手段でしょうか。あとは、日本企業は多く場合が保守的で横を気にする文化なので、他社の成功事例を紹介する、というのも有効な手段かもしれません。

―― お話を伺っていると、やはりオープンイノベーション成功の秘訣は担当する”人”にあるように思えてきたのですが、どういう”人”がいる組織だと成功すると思いますか?

現状に対して不満を持っていて、変えていかなくてはいけないという確固たる意志を持っていることがまず重要だと思います。属人的な情熱を持っている人は大企業では少ない印象なのですが、ロジックは情熱に敵わないところがあり、「本当にやるんだ」という情熱・強い思いがリーダーシップを発揮し、人を動かす力になりますので、パッションを持っていることが必須条件だと思います。一方で、大企業では多くの場合出る杭は打たれてしまうので、組織での立ち回りの上手さも併せて必要になってくると思います。

一見イノベーションに興味のない人でも、実は気付いていないだけという場合もあるので、幅広い社員を対象に働きかけ、イノベーションに対して関心のある人を炙り出すアプローチも有効です。大事なことは、事業の本流から少し離れた取り組みであっても情熱やこだわりを持って取り組み続けることの出来る、いわゆる”変人”をいかに見つけるか、という点だと思っています。例えば、ある大手保険会社で実際に行ったのは、オープンイノベーションに関する社内でのディスカッションの場を企画し、朝の出勤時間帯にビラを撒いて参加者を募集しました。結果として50-60人程度の社員の方に集まっていただいたのですが、ビラの内容に興味を持って時間外にも関わらずイベントに参加するような方は明らかに熱量の高い方ですので、このようなイベントでまずは社内に潜む興味や熱量を持った方を特定し、そういった方々に働きかけることで、組織を引っ張っていくことのできる”変人”特定する、というやり方もあると思います。

オープンイノベーションの取り組みは社内での反発が大きい場合が多く、一方で情熱を持つ担当者本人は現状に対して問題意識を持っている方なので、転職という選択肢が選ばれる可能性の高い構造にもあります。そんな中でも「情熱を持ちながらも会社のために頑張り続けられる人」というのは非常に稀有な存在なので、会社はそういう人材を大事にすべきだと思います。

―― 日本でイノベーションを促進させるためにGreenTech Labsのようなコミュニティが果たせる役割というのはどういうものがあると思いますか?

大企業でイノベーションを起こそうとすると社内では圧倒的に反対勢力が多いのが常なので、GreenTech Labsのようなコミュニティでは、社外に味方を求めて議論できるような場を提供できると良いのではないでしょうか。

当社でも似たような取り組みを行っており、アクセラレータープログラムにご参加いただいている企業様を対象に、オープンイノベーションが社内で全然進まない悩みや、逆にオープンイノベーションの成功事例を共有するオンライン上のプラットフォームを提供しています。各社のご担当者様皆さまに参加いただくことで、相互に支援していただきながら、各担当者様のモチベーションの維持にも繋がっているのではないかと思っています。

―― 最後に、内木さんご自身は今後どういったことに取り組んでいきたいと考えていますか?

元々、電力会社に入社したのも世の中の基盤を支えるインフラ事業に興味があったからで、今でもその気持ちは変わっていません。Plug and Playはスタートアップとのオープンイノベーションを加速・実現させるインフラだと考えているので、今の仕事は自分自身が元々やりたかったことに近いと感じており、またPlug and Playで働くこと自体も好きなので、しばらくは当社の取り組みを拡げていくことに尽力していきたいと考えています。昨今では政府によるスタートアップ支援も加速していますし、何より新しい事業を起こしていかないと日本自体が沈んでいくと思っていますので、新しい事業を創っていくお手伝いをしていることにもやりがいを感じています。2021年には、エネルギーに特化したオープンイノベーションのプログラムを開始するのが確定しているので、多くのエネルギー業界の方々とまた仕事でご一緒する機会があれば嬉しいです。

自分自身で起業したい気持ちもありますが、またシリコンバレーに行くのもいいいかな、と考えたりもしています。

(終わり)

 

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イベントご案内

Plug and Play Japanでは、12月4日(金)にCleantechをテーマとしたイベント(無料)を開催予定です。
日本のエネルギー企業10社による探索ニーズ紹介のあと、今後日本進出予定のスタートアップ10数社によるプレゼンテーションが行われます。
本イベントにご参加いただき、協業パートナーとして共にデジタル変革を進める最先端スタートアップをぜひ見つけてください。
詳細、申込はこちら。
https://www.eventbrite.com/e/cleantech-x-japan-2020-tickets-120460688161

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記事執筆日: 2020年10月28日

執筆責任: GreenTech Labs